◆かつては市民の通勤通学の足
ホンダの原付きバイクといえば、スーパーカブ。1958年から続く人気車種で原付き市場をリードし、2017年にはシリーズ累計生産が1億台を突破した。静岡県富士市で毎春、ファンミーティングを開いてきた竹下朋宏さんは「ほとんどのファンは110㏄、125㏄とより排気量の大きなカブに乗っている。50㏄はほぼ皆無。生産終了は時代の流れ」と受け止める。1960年に生産された「スーパーカブ」の鈴鹿産1号機=2022年5月、三重県鈴鹿市役所で
郵便配達でもかつてはカブをよく見かけた。日本郵便によると、現在でも約6万5000台が使われているが、同社は「CO2削減」を目的に電動二輪車への入れ替えを進めている。 50㏄バイクは取得が容易な原付き免許で運転でき、車体価格も手ごろなことなどから市民の「通勤通学の足」として広まった。東海東京インテリジェンス・ラボの杉浦誠司シニアアナリストは「私が仙台で学生時代を送った1980年代、大学生の乗り物と言えば原付きだった」と懐かしみつつも、「現在、都心で原付きに乗っている若者はほとんど見かけなくなった」と言う。◆2025年開始の新排ガス規制が追い打ち
日本自動車工業会(自工会)によると、50㏄以下の2023年の出荷台数は9万2824台と、30年前の9分の1以下に落ち込んだ。そもそも50㏄バイクは日本独自の規格で海外展開が難しい。頼みの国内市場でも、近距離の移動手段として電動アシスト付き自転車や、電動キックボードの普及に押されたことが背景にあるとみられる。電動アシスト自転車と電動キックボードのシェアリングサービス=JR宇都宮駅付近で(資料写真)
そこに追い打ちをかけたのが2025年11月から始まる新たな排ガス規制だ。この基準をクリアするための技術開発は50㏄の小さなエンジンでは難しい上、うまくいっても、市場が縮小する中で、開発コストを回収するのは至難の業だった。 このため、自工会などの要望を受けた警察庁の有識者会議は昨年12月、速度が出ないように最高出力を抑えた125㏄以下の小型バイクを「新基準原付き」とし、原付き免許で運転できるよう法改正する、という内容の報告書をまとめた。◆専門家「メーカーの撤退は既定路線」
杉浦氏は「125㏄はバイクの利用が多い東南アジアなどではメイン。ホンダは限られたマーケットの限られたニーズに、新たな投資はできなかった。他社も同様の判断をするだろう」とみる。 原付きバイクを生産するスズキ、ヤマハ発動機は東京新聞の取材に「コメントは控える」「今後の見通しについて発表できる段階にない」と回答したが、自動車評論家の国沢光宏氏も「排ガス規制が決まった段階で、メーカーの50㏄からの撤退は既定路線」と話す。 今後の受け皿は、新たに販売されるだろう新基準原付きか、各社が力をそそぐ電動二輪車が担うとみる。いずれも現行の原付きバイクに比べて車体価格が高いことが消費者にとってネックになりそうだ。 ただ国沢氏は「普及が進めば電動車の価格は下がるだろう。50㏄バイクがなくなっても、手軽に乗れる原付きの利便性は受け継がれる。意外と困る人はいないのでは。寂しさはあるが、時代の要請であり、仕方ない」と見通した。 鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。