経営が順調であるかのように見せかけた粉飾決算で銀行から融資金5億円をだまし取ったとして、警視庁捜査2課は18日、詐欺の疑いで、ベアリング商社「堀正工業」(東京都品川区、破産手続き中)の元社長、堀雅晴容疑者(69)=品川区=ら3人を逮捕した。  他に逮捕されたのは、同社元総務部長の大熊重康容疑者(73)=板橋区=と、元顧問税理士の山口賢一容疑者(74)=板橋区。同社は昨年7月に破産手続きを開始した時点で、全国の46金融機関から借りた約251億円の債務があり、捜査2課は他にも粉飾決算による借り入れがあったとみている。  逮捕容疑では、2022年11月〜23年2月、三菱UFJ銀行に粉飾した決算書などを提出し、仕入れを増やす資金として5億円の融資金をだまし取ったとされる。捜査2課は3人の認否を明らかにしていない。  堀正工業はベアリング大手「NTN」(大阪市)の代理店で、1933(昭和8)年に創業。2022年9月期決算では、半導体関連企業からの受注堅調などを理由に約68億円の売り上げがあったと公表していたが、昨年5月、不適切な会計手続きを続ける中で借入金が膨らみ、債務超過に陥っていることが判明した。  捜査関係者によると、粉飾決算は堀容疑者が社長に就任した2003年ごろに始まったとみられ、多い時期は54の金融機関から借り入れがあった。金融関係者によると、融資を受ける銀行や信金ごとに異なる決算書を提出していたという。

◆単純な粉飾じゃない、悪意を持った巧妙手口

 堀正工業の債権者らへの取材によると、同社は三菱UFJとみずほの両メガバンク、全国の地銀、信金など幅広い金融機関から借り入れがあった。粉飾決算で受けた融資を、別の粉飾決算による融資で返済する「自転車操業」を長年続ける中、「粉飾の手口も巧妙になっていった」(捜査関係者)とみられる。  取引先の企業から紹介され、堀正と取引を始めたというある銀行は、数年前から「在庫を増やしたい」という名目で融資を申し込まれるようになった。決算書には、借入先としてメガバンクなど3、4行だけが記載され、勘定科目にも「明らかに不自然な箇所はなかった」という。  堀正に融資した別の地銀の担当者も、「特定の勘定をいじった単純な粉飾ではなく、銀行をだまそうと巧妙に作った決算だった」と振り返る。地方経済の停滞で融資先が見つからない地銀にとって、在京企業の申し込みはまたとない好機。「悪意を持って本気で作り込まれたら、また同じことが起きるかもしれない」と危機感を募らせる。  捜査関係者によると、堀正は資産の水増しや負債の圧縮など、緻密な調整で決算書を整えていたとみられ、ノウハウを蓄積した「手引」もあった。融資金は、堀容疑者が始めた農業や飲食業などの関連会社の運転資金に充てられたほか、遊興費や高級外車の購入に使われたという。(佐藤航) 

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