台湾を代表する画家だった陳澄波(チェンチェンポー)の孫の陳立栢(チェンリーボー)さん(71)が17日、山口県立美術館(山口市)を訪れ、県とゆかりのある陳の油絵「東台湾臨海道路」の貸し出しを依頼した。陳の生誕130年を記念し、年末に台湾で始まる展覧会で紹介するためで、この絵を所有する防府市は貸し出す意向を示した。

 陳は、日本による台湾統治が始まった1895年、台湾の嘉義市で生まれた。東京美術学校(現在の東京芸術大学)で西洋画を学び、台湾出身の画家としては初めて帝展で入選し、卒業後は上海でも活動した。

 しかし、終戦後に日本に代わって台湾を統治した国民党が民衆を弾圧した1947年の「二・二八事件」のさなか、市民を代表して交渉に赴いた陳は拘束され、公開処刑された。

 「東台湾臨海道路」は、26~28年に台湾総督を務めた防府市出身の上山満之進(1869~1938)が離任する際、陳に依頼して制作してもらった作品だ。上山が建設に関与した道路や先住民が描かれている。

 上山は晩年、私財を投じて郷里に図書館を建設することを計画。死去後の1941年に開館した防府市立三哲文庫(現在の市立防府図書館)に、蔵書とともにこの絵が寄贈された。

 長年、図書館内に掲示されていたものの、図書館の移転の際に倉庫にしまわれた。しかし、龍谷大学教授などを務めた市内の住職、児玉識(しき)さん(故人)が、上山の伝記を執筆中に再発見。2020年には台湾で里帰り展示された。

 立栢さんは、陳を顕彰する「陳澄波文化基金会」の会長も務めている。この日は、台北に在住し、歴史小説「陳澄波を探して 消された台湾画家の謎」(岩波書店)の翻訳を手掛けた県出身の文筆家、栖来ひかりさん(48)らとともに、この絵が寄託されている県立美術館に来館。池田豊・防府市長や島田教明県議会副議長=同市選出=らと面会した。

 立栢さんは、台湾博物館で12月~来年5月に予定されている、陳の作品や博物館の自然史コレクションを紹介する展覧会への貸し出しを要請。「若い台湾の人に前の時代の作品を見て、歴史についてもっと深く考えてもらいたい」と話した。

 池田市長は取材に対し、貸し出しに応じる意向を示し、「陳立栢さんに来ていただいて感無量。改めて児玉先生らに感謝申し上げたい」と述べた。(大室一也)

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