アメリカのインド太平洋軍は、陸海空軍や海兵隊などが参加する大規模な実動演習「バリアント・シールド」を2年に一度、グアムなどで実施していて、10回目となる今回は初めて日本にも範囲を広げて今月7日から18日までの日程で行っています。
このうち青森県の海上自衛隊八戸航空基地では13日午後5時ごろ、アメリカ本土に配備されているF16戦闘機3機が次々に着陸しました。
防衛省によりますと、在日アメリカ軍基地が攻撃を受けて使えなくなった場合などに自衛隊の基地に展開する訓練だということで、宮城県の航空自衛隊松島基地にもアメリカ本土に配備されているF16戦闘機2機が着陸しました。
松島基地や八戸航空基地では自衛隊の戦闘機や哨戒機などが運用されていますが、アメリカ軍の戦闘機の訓練が行われるのは初めてとみられます。
今回の演習では北海道や九州、小笠原諸島の硫黄島などでも自衛隊との共同訓練が行われていて、今回、アメリカ軍が初めて日本にも演習の範囲を広げた背景には、中国を念頭に日本周辺などで有事が起きた場合の即応体制を強化したいねらいなどがあるとみられます。
中国念頭に具体的な想定
アメリカ軍が2006年から2年に一度行っている「バリアント・シールド」。
10回目となる今回は中国を念頭により具体的な想定に基づいて行われているものとみられます。
中国は南西諸島から台湾、フィリピンに至るいわゆる「第1列島線」と、小笠原諸島からグアムやパラオに至るいわゆる「第2列島線」を有事の際の防衛ラインとして位置づけ、日本や第2列島線まで届く弾道ミサイルを配備するなどして、アメリカ軍の接近を阻止する戦略をとっているとされています。
これまでの「バリアント・シールド」は第2列島線上のグアムを中心にアメリカ軍が単独で実施してきましたが、今回は初めて日本本土や第1列島線にも範囲を広げ、自衛隊なども参加しています。
このうち青森県の海上自衛隊八戸航空基地と宮城県の航空自衛隊松島基地では、在日アメリカ軍基地が攻撃を受けて使えなくなった場合などに備えて戦闘機が展開する訓練などが行われています。
八戸航空基地や松島基地では自衛隊の哨戒機や戦闘機などが運用されていますが、アメリカ軍の戦闘機の訓練が行われるのは初めてとみられ、防衛省関係者は「青森県のアメリカ軍三沢基地が攻撃された場合に近くの自衛隊の基地をスムーズに使うことができるか試しておきたいねらいがあるとみられる」と話しています。
また、第1列島線上にある鹿児島県の奄美大島では、地上から海上の艦艇を攻撃する陸上自衛隊の地対艦ミサイルの部隊が展開してアメリカ軍とともに艦艇に対応する訓練を行っています。
さらに第2列島線上にある小笠原諸島の硫黄島では、滑走路が攻撃を受けたことを想定して、自衛隊とアメリカ軍が共同で復旧する訓練を行っています。
硫黄島にある海上自衛隊の航空基地には、小笠原諸島で唯一、戦闘機も離着陸できるおよそ2600メートルの滑走路が整備されていて、日米が共同で復旧訓練を行うのは初めてとなります。
このほかにもアメリカ軍は原子力空母の「ロナルド・レーガン」を第1列島線と第2列島線の間の太平洋に展開させ、演習初日の今月7日には九州南部の沖合で艦載機による発着艦の訓練をメディアに公開しました。
関係者によりますと、今回の演習はアメリカ側が日本や第1列島線に範囲を広げて実施する意向を示し自衛隊の参加を打診したということです。
一方で、アメリカ軍が演習の実施を公表したのは開始直前の3日前で、発表文では自衛隊も含めて参加国を明らかにしておらず、関係者は「中国を過度に刺激しないようにする意図もうかがえる」と話しています。
青森の海上自衛隊八戸航空基地では
青森県の海上自衛隊八戸航空基地の駐機場には整備などを行うアメリカ軍の地上要員や海上自衛隊の隊員が待ち構えており、早速、到着した機体の状況を確認するなどの作業を始めていました。
アメリカ軍の戦闘機は、11日到着する予定で調整されていましたが、アメリカ軍の運用上の判断で延期が続いていました。
八戸航空基地での演習の日程は今月18日までで、休日を除く、午前6時から午後9時までの間に行われるということです。
演習のうち、航空自衛隊と八戸市から離れた訓練空域で行う共同訓練は14日と17日に日程が組まれています。
東北防衛局によりますと、これまでにもアメリカ軍の戦闘機が八戸航空基地で緊急時に離着陸を行うことはありましたが、大規模演習の拠点として一時的に展開するのは初めてということです。
今回の演習を巡って、青森県や八戸市は、アメリカ軍などに対し、安全飛行に十分留意し、市街地上空で低空飛行といった危険な飛行をしないことなどを文書で要請しています。
東松島市にある航空自衛隊松島基地では
松島基地での訓練は、在日アメリカ軍基地が攻撃を受けて使えなくなった場合などに備えたもので、F16戦闘機が着陸すると、先に展開していたアメリカ軍の要員や自衛隊員が整列して出迎えていました。
当初、今月10日に予定されていましたが3日遅れての展開となりました。
訓練は今月18日まで行われ、基地では戦闘機を受け入れる訓練が行われるほか、海上では、アメリカ軍と自衛隊の戦闘機が共同で敵の戦闘機に対処する訓練が行われる予定です。
東北防衛局によりますと、基地での訓練は、夜間や休日は行わず、実弾も使用しないということです。
一方、地元の東松島市や宮城県などは、測定器を使って騒音がふだんより大きいかどうかなどを調べ、必要に応じて東北防衛局に対応を求めることにしています。
専門家「今回のような訓練 増えていく」
アメリカ軍の大規模演習「バリアント・シールド」が今回、初めて日本でも行われていることについて、安全保障政策に詳しい中京大学の佐道明広教授は「訓練の実施場所として、日本からフィリピン周辺に至る地域などが含まれていて、中国を念頭に大規模な有事が起こった場合の即応訓練だと考えられる。今回、日本国内では九州から北海道までの広範な地域で行われていて、もし本格的な有事が起こった場合には、日本全体がアメリカとの協力態勢に入っていくことを示している」と指摘しています。
そのうえで「現在の安全保障環境から考えると、抑止力の強化という面から見ても日米の連携強化が進む中で今回のような訓練は増えていくことになるだろう。有事になった場合、自衛隊の基地は基本的にアメリカ軍との共同使用が前提になり、民間の空港や港湾が使用される可能性も極めて高くなる」と指摘しています。
一方で、自衛隊やアメリカ軍の使用が想定される場所について「相手の国からみたら攻撃対象になり得るため、有事の際の住民の保護や避難も検討されなければならない。防衛に関することは秘密にしておかなければならないこともあると思うが、住民の不安を払拭(ふっしょく)する意味でも可能なかぎりの情報公開は進めていくべきだ」と述べ、訓練を行う際は、内容や必要性だけでなく、リスクも含めて丁寧に説明する必要があるとしています。
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