客が理不尽な要求をするカスタマーハラスメント(カスハラ)が社会問題化するなか、愛媛県伊方町で役場の業務対応をめぐり、町職員を脅迫した疑いで、50代の男が書類送検されたことが、関係者への取材でわかった。被害を受けた職員の1人は心を病んで退職を余儀なくされており、町役場はカスハラ対策の条例を制定するなどの取り組みを始めている。

 関係者によると、町が関係する運送事業に携わる男は担当者の対応に不満をもち、昨年3月、夜間に職員2人を自宅に呼びつけ、翌日未明まで約8時間、「木刀で後ろからぶち破ってもいい」「家はわかる。いなかったら嫁もいるだろうから待たせてもらう」などと脅したり、謝罪を迫ったりした。

 その後、現場にいた男性職員の1人がストレスによる抑うつ状態と診断されて休職。昨年8月には役場を退職した。「男と二度と顔を合わせたくない」と、現在は東日本の街で単身赴任生活をしているという。

 昨年10月に元職員の親族から刑事告発を受けた県警は今年5月、男を脅迫や強要などの容疑で書類送検した。親族によると、男は昨年1月ごろから役場窓口などで何度も抗議を繰り返していた。

 未明まで抗議を受けた直後の元職員から、「もう役場をやめる」とショートメッセージを受け取った親族は、大きなショックを受けたという。「あの呼びつけが決定的で、職場の誰もがおびえきっている様子だったらしい。検察は必ず起訴してほしい。全国のカスハラ対策に影響する」と語った。

 少子高齢化が進む愛媛県南予地方に位置する伊方町は、今年5月末現在の高齢化率は49.7%で、人口減少が急速に進む。人手不足は深刻といい、浜松一良副町長は「公務員のマンパワーが限られる中、退職者が出るのは非常な痛手」と話す。

 事態を受けて町は昨年6月、「職員は不当要求行為を拒否しなければならない」「明らかに違法、または職員などに危険が及ぶおそれがあると認められる場合は、警察への通報など必要な措置を講ずる」などと定めた「不当要求行為等対策条例」を制定した。

 さらに職員のプライバシーを守るため、名札を名字の読み表記だけにしたり、窓口業務を防犯カメラで撮影したりする取り組みを進めている。浜松副町長は「捜査の進展を見守り、さらにカスハラ対策を徹底したい」と語った。(戸田拓)

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