6月は、LGBTQ(性的少数者)の権利について世界各地で啓発活動が行われる「プライド月間」。この月間を前に、2001年に世界で初めて同性同士の結婚を可能にしたオランダの女性カップルと、英国で同性婚の法制化に尽力した政府特使が来日した。それぞれの歩みと現状を聞いた。

オランダの同性カップルの現状や制度について話すマルティーヌ ファン・グリーケンさん(左)とクリスティアンヌ・マタイセンさん=港区で

◆22年までに3万1000組が結婚

 オランダの政府関連の仕事に就くクリスティアンヌ・マタイセンさん(59)と、マルティーヌ ファン・グリーケンさん(61)は1995年から共に暮らし、長男メースさん(18)を育ててきた。同国で同性婚が実現して23年。「2人の母がいる家族も『普通』だと受け入れられている」と話す。

オランダ内務・王国政務省と法務省前に掲げられたLGBTQを尊重するフラッグ©Hedy van der Sijde

 オランダでは、22年までに同性カップル3万1000組余りが結婚。「結婚」のほか、法的な保護には「登録パートナーシップ」と一緒に住む際の取り決めを交わす「同居契約」があり、すべて異性も同性も利用できるという。2人は「同居当時は結婚できなかったので契約を結んだが、もしできたらしていた。同性カップルも結婚できる選択肢があることが重要」と強調。一方、契約でも家族と認められ、今は結婚の必要性を感じていないそうだ。

◆友達が「私もお母さんが2人ほしい」

30年以上前から、職場でも同性愛者と公表して働いてきた。不都合を感じたことは「ない」と2人。育児休暇の取得や年金の受給権も男女の夫婦と変わらず、メースさんの学校でも両親として扱われたという。

10の政府機関のLGBTQネットワークが参加した「プライド・アムステルダム2018」の運河パレード©Sebastiaan Hamming

 「息子が小さい時、私たちが同性カップルということで嫌な思いをしないか心配したこともあったが、問題はほぼなかった」とクリスティアンヌさん。1度だけ、保守的なキリスト教信者の女性に「息子同士を遊ばせたくない」と言われたことがあったが、多くの親は好意的だった。自宅に遊びに来た息子の友達が「私もお母さんが2人ほしい」と訴えたことも。「私たちは男女のカップルと変わらない。息子もそう思ってる」と笑顔を見せた。    ◇

◆同性婚10年の英国「多くの人が受容」

 英国は、2013年に同性婚が法制化され、14年に初の同性結婚式が行われて今年で10年になる。下院議員として法整備に尽力し、政府の「LGBT+権利特別特使」を務めるニック・ハーバート上院議員は「私が生まれた時は同性愛は英国では犯罪だったが、今では多くの人が同性婚を受け入れている」と変化を語った。

「今では多くの人が同性婚を受け入れている」と話す英国のニック・ハーバート上院議員=都内で

 05年、保守党で初めてゲイ(同性愛者)と公表して国会議員に。性的少数者の課題に力を入れたきっかけは、若い男性からの手紙だったという。「政治家を志しているが、ゲイなのでなれないのではないか」と不安がつづられ、ハーバート上院議員に感謝を伝える内容だった。「手紙を出してくれた人のためにも立ち上がるべきだと考えた」  約20年前に初来日し、今回が4度目。同性婚への前向きな司法判断が相次ぐ日本の現状にも触れ、「法改正をしても脅威にはならず、社会的なメリットがある。社会や家族制度を弱めるのではなく、むしろ強くする」と訴えた。    ◇

◆日本はG7唯一法制化なし

 同性婚は世界35以上の国・地域で認められている。しかし日本は先進7カ国(G7)で唯一、同性カップルへの法的保障がない。  札幌高裁が3月、同性婚を認めない現状の法制度は憲法違反と判断するなど、同種訴訟では地高裁7つの判決のうち「違憲」「違憲状態」が6件まで積み上がる。自治体が同性カップルを認める「パートナーシップ制度」は全国400超の自治体が導入。法整備を求める世論は高まっているが、政府は依然として消極姿勢のままだ。 文・奥野斐/写真・由木直子、奥野斐 ◆紙面へのご意見、ご要望は「t-hatsu@tokyo-np.co.jp」へメールでお願いします。


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