大阪市が大阪・関西万博の入場券をふるさと納税の返礼品とすることを検討している。返礼品は地場産品と定められる一方、日本維新の会の幹部はかねて「万博は国家事業」と発言。整合性に疑問が浮かぶ。市税流出を防ぐのが目的というが、首をかしげたくなる検討の裏にどんな思惑があるのか。(宮畑譲)

◆「返礼品競争に加わらない」はずが一転…

 「市税の流出は年々大きくなってきており、無視できない。また、万博開催を機に市の魅力を存分に発信し、大阪を応援してもらえるように取り組んでいく必要がある」。5月23日の大阪市議会財政総務委員会で市幹部がこう述べた。  ふるさと納税を巡っては2022年度、市への寄付が5億5000万円だったのに対し、市民が他の自治体に寄付したことに伴う住民税控除により、23年度は約149億円が流出した形になった。流出額は全国で3番目に多かったという。  大阪市は従来、「返礼品競争に加わらない」という姿勢で、返礼品の基準は「寄付額1万円以上で2000円以内」と他都市よりも「お得感」は少なめで運用してきた。今後は国基準の「寄付額の3割以下」に見直し、万博入場券以外にも扱う種類を増やす方針だ。

◆前売り券が売れていないから?

 返礼品に万博の入場券を含める理由を改めて市の担当者に聞くと、「万博を機会に訪れる人が増える。大阪の魅力をもっと発信し、万博をPRしていこうということ」と答えた。  しかし万博の入場券は、既に販売が始まっている。なぜ今になって返礼品に含めようとするのか。

大阪・関西万博の入場チケット購入サイト

 大阪在住のジャーナリスト、吉富有治氏は「前売り券が売れていないからだ。大半は企業が買い、一般の人はほとんど買っていない。万博の成否の一つの基準は入場者数。そのかさ上げのためだ」と指摘する。  前売り券の販売目標は1400万枚で、今月6日現在、販売枚数は約260万枚。23年12月に大阪府市が実施したアンケートによると、来場意向の人の割合は大阪府内で36.9%で目標の55%に届かなかった。全国では33.8%だった。

◆建設現場で爆発事故、安全面に懸念も

 吉富氏は「入場券が売れなくて焦っているのは万博開催を言い出した維新側。万博の失敗は維新の人気に響く。いろんな話題をつくって盛り上げようとしている。子どもの無料招待も同じ文脈だ」とみる  子どもの無料招待を巡っては、会場施設の建設現場で、メタンガスに工事中の火花が引火し、爆発事故が起きたこともあって、安全面から反発もある。安全確認を府などに要望した大阪教職員組合の米山幸治書記長は「返礼品で選ぶ人の判断は個人的なことなので何とも言えない。ただ、安全そのものが保障されているかは別だ」と口にする。

大阪・関西万博の会場建設が進む夢洲。木造の大屋根(リング)は万博のシンボルとなる=3月

 総務省によると、22年度のふるさと納税の総受け入れ額は約9654億円。その1割程度は仲介サイトの手数料が占めるとされる。そもそも、返礼品競争が加速し、地場産品と言えるのか疑わしいものも増えたため、総務省がルールを改正してきた経緯もある。

◆公金投入+ふるさと納税の「二重取り」

 同省の担当者に万博の入場券が適当か聞くと、「地域で提供される役務、サービスも含む。国の税金が入ったイベントだからといって直ちに除外される規定はない」と答えた。  ただ一橋大の佐藤主光教授(財政学)は「万博は、国からの税金を含めた公金が投入されるイベント。他の自治体から収支を埋め合わせることになる」と述べ、さらにふるさと納税を促すと「二重取り」に似た形になると違和感を訴える。その上で「返礼品にしないとチケットを買ってくれないということの裏返し。魅力を高め、本来の値段で買って来てもらうのが筋。安売りするなら身銭を切って補填(ほてん)すればいい」と求める。 

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