群馬県渋川市の伊香保温泉の空き家を有効利用し、若い起業家の挑戦を支援して市の魅力向上につなげる取り組みが始まっている。市が借り上げた店舗兼住宅に、手作りのキャンドル店を開いた萩原奈々さん(26)は横浜市から移り住んだ。店の経営に奮闘しながら、渋川市とともに市の良さも発信している。

 榛東村出身の萩原さんは、大学進学で県外へ出て、卒業後は東京の大手企業に就職した。当時から「いつか独立したい」気持ちはあり、趣味でつくっていたキャンドルがフリーマーケットで売れたり友人に喜んでもらえたりすることにうれしさを感じ、2年勤めた会社を昨年辞めた。

 その後、みなかみ町の水上温泉街での廃ホテルを活用した社会実験イベント「廃墟(はいきょ)再生マルシェ」に参加してキャンドルを販売した。「ずっと東京で生きようと思っていたけど、群馬の温泉街っていいなと感じた」

 温泉街で店を持ちたいと調べるうちに、渋川市が伊香保の空き家を改修した施設への入居者を募っているのをみつけて昨年10月に応募。審査を経て、今年4月にキャンドル店「ヒトゴト」を開業した。

 キャンドルやアクセサリーなど約100点が並ぶ1階では、キャンドル制作体験もできる。地下の空間はイベントや展示スペースとして使い、2階では夏に向けて浴衣のレンタルを始めようと考えている。「SNSを見て『この店を見たくて伊香保に来た』というお客さんもいる。そういう方が増えれば、まちづくりにもなる」

 渋川市は、萩原さんに温泉地での暮らしを発信してもらったりイベントを企画したりして、移住促進と空き家の再利用を進めたいという。萩原さんが旅館のおかみや周辺店舗の関係者ら地元とも交流し、旅行者らへお互いの店を紹介していることも「ありがたい。官民で伊香保を盛り上げられれば」と期待する。

 市の契約としての入居は最長3年。萩原さんは「ここでの暮らしは魅力にあふれている。悩む人や若い人たちの選択になるようなお店づくり、発信を続けていきたい」。店の情報はインスタグラム(@hitogoto.3579)で。(杉浦達朗)

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