会津塗の職人が漆を塗った生分解性プラスチック製の杯

 400年の歴史があるとされる福島県の「会津塗」。塗りが丈夫で、日常使いにも適しているのが特徴だ。創業89年の「三義漆器店」(会津若松市)の3代目の曽根佳弘さん(60)は、新たな伝統を生み出そうと、現代の暮らしに寄り添う漆器作りに挑んでいる。(共同通信=横上玲奈)

 店は1935年に塗り師だった祖父義雄さん(故人)が創業。「伝統を止めない 新しい伝統を始める」と書かれたのれんをくぐると、展示スペースには桜や菊が鮮やかな色彩で描かれたおわんや杯が並ぶ。中には「電子レンジ・食洗機OK」の表示のある器も。食洗機で使える漆器は1993年に日本で初めて開発した。

 佳弘さんは2008年に社長に就任。欧州への販路拡大を見据えていた時、東京電力福島第1原発事故が発生した。避難所で使ってもらおうと食器の提供を申し出たが「洗う水がもったいない」と受け取ってもらえなかった。店は「使ってもらえる器作り」をモットーとしており、ショックは大きかった。

 もともと江戸時代に先端技術として会津地方に広まった漆工芸。佳弘さんは、より使い勝手の良い器を作ろうと決意。3年の試行錯誤を経て特殊な塗料をメーカーと共同開発し、撥水性の高い器を完成させた。すぐに乾き、洗い物時間の短縮にもつながると反響を呼び、今では看板商品の一つになった。

 現代社会が直面する新たな難題にも取り組む。川や海に流れ込み、微細な粒子となって環境中に残存する海洋プラスチック。大量に出回る使い捨てのプラ容器は発生源の一つとされ、器の作り手として何か力になれないかと考えた。

 福島県いわき市の会社と連携し、微生物によって分解可能な生分解性プラを成型し職人が漆を塗った杯を完成させた。自然由来の素材と会津塗伝統の優美な装飾をかけ合わせた持続可能な器だ。「100年後、200年後に伝統と呼ばれるものを作っていきます」

「三義漆器店」の曽根佳弘社長=福島県会津若松市
「三義漆器店」の曽根佳弘社長=福島県会津若松市

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