2024年4月下旬、時計は深夜0時を回ったばかり。マレーシアの首都クアラルンプール中心部の食堂に集まった男女8人は車とバイクに分乗し、現場へ向かった。テレビ塔近くの公道に到着すると、交通整理、看板設置などを手分けする。舗装された道に大きく開いた穴からごみを掃きだし、アスファルト補修材を中に注ぎ込んだ後、車で踏みならしていく。修復は15分以内に完了した。(共同通信=角田隆一)
彼らは当局から受注した土木会社ではない。団体名は「兄弟」。政府に無許可で、公道に放置されたままの穴ぼこを修復する勝手連だ。この日は午前2時まで4カ所を補修した。謝礼もなく無給。参加する会社員トクアブさん(35)は「明日は出社です」と笑った。
設立したランド・ザラウィさん(48)は映像会社代表兼俳優だ。「バイク乗りの友人10人を欠陥道路の事故で失ったのがきっかけだった」。活動的なメンバーは約50人。事故で脚を失った人、家族や友人を亡くした人も少なくない。
地元メディアによると、政府は2019年だけで20万個の穴を修復した。道路に穴が多いのは、過積載のトラックが多いことや、無電柱化率が日本より高いマレーシア都市部で「電線や通信回線の埋め直し後の工事が雑な可能性がある」(地元記者)ためだ。
政府も問題を認識し、改善を急ぐ。ランドさんは「(市民らの連絡で知った)路上の穴をまず撮影して当局に報告する。長く放置された場合、出動する」と語る。修復した場所にスプレーで月日や費用などを記し、当局に「奮起してもらいたい」と写真を送り付ける。
ランドさんに工事経験はなかったが、土木会社にお金を払って学んだ。オーストラリアで作業員にまじって技術を学び、補修材を自ら開発、販売するまでになった。
修復に関わったのは2千カ所以上。団体全体では数倍に上る。「持ち家がないのは活動のせいだと妻から怒られる」。道路の欠陥がない社会を実現するまで続けると笑った。
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