◆「式典で不測の事態が発生するリスク」
長崎市の平和祈念像(資料写真)
今月3日、鈴木市長は臨時記者会見で、現時点でイスラエルの招待を保留し、在日大使館には即時停戦を求める書簡を送る方針を説明した。「現在のガザ地区の危機的な人道状況、それに対する国際世論の状況から、式典で不測の事態が発生するリスクが懸念される。主催者として安全かつ円滑な運営の観点から、このままの状況では(招待は)厳しい」と述べた。 ウクライナに侵攻したロシアと同盟国ベラルーシも同様に運営上の理由で、3年連続で招待しないことを決めた。だが、イスラエルに関しては「状況を見ながら検討していく」と招待する余地もあるという。 長崎県平和運動センター被爆者連絡協議会の川野浩一議長(84)は「被爆国であり平和憲法を持つ国として、武力を行使しない、他国への侵害、攻撃は許さないという基本的な考えを堅持しなければいけない」と理解を示す。◆宣言文で「イスラエルに言及すべきだ」と意見も
ただ、市側が理由として、運営上のリスクを挙げることには疑問を呈する。「ガザで残虐行為を行うイスラエルと、ウクライナに侵攻するロシアはいずれも招待するに値しない」 5月に開かれた「長崎平和宣言文起草委員会」では、今年の式典で読み上げる宣言文について、被爆者や有識者ら委員から「イスラエルに言及すべきだ」との意見もあった。 委員の一人で長崎原爆被災者協議会の田中重光会長(83)は「イスラエルはガザで無差別に民間人を攻撃し、核兵器の使用にも触れている。報復だとしても決して許されない」と話す。8日には宣言文の素案が示される予定で、「明確なメッセージを盛り込んでほしい」と求める。◆「ダブルスタンダード」指摘に声を荒げる
広島市の原爆ドーム(資料写真)
一方の広島市は4月、イスラエルに停戦を求めるメッセージを記した上で例年通り招待する方針を決めた。ロシア、ベラルーシは招待しないため、記者会見で「ダブルスタンダードにみえる」と指摘された松井一実市長が声を荒らげて否定する場面もあった。 「岸田首相の選挙区でもあり、広島市の判断は政府への配慮が感じられる」と川野さんはいぶかしむ。長崎は、国の指定区域外で原爆に遭い、被爆者と認定されていない「被爆体験者」の救済で広島との差が生じている。広島原爆で放射性物質を含む「黒い雨」を浴びた人々の被爆者認定で政府が新基準を作ったのに対し、長崎の「被爆体験者」は対象外のままだ。川野さんは「差別的な扱いをされ、弱い立場にある」との思いを明かす。◆「官僚的な理由で政治的な背景を隠そうとしている」
全ての国に被爆の実相を知ってもらうことの重要性を訴える声も聞かれる。前広島市長の秋葉忠利さん(81)は「誰を呼ぶかに政治的理由を持ち込むことは本来、すべきではない」としつつ、「呼ぶことで混乱を招くという官僚的な理由で政治的な背景を隠そうとしている」と問題視する。「核を使う脅しや、戦争をしている国の首脳に、核使用や戦争を諦めさせるのが被爆都市の役割ではないか」 広島県原爆被害者団体協議会の箕牧(みまき)智之理事長(82)は「広島市は、外務省の立場に沿ってイスラエル招待の判断をしたのだろう」と話し、ロシアやベラルーシも招待することを求める。「核兵器を一発でも使えばどうなるのか。使用を示唆する国にこそ被爆地を見てもらうことが一番効果的なはずだ」 鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。