1992年、福岡県飯塚市で小学1年生の女の子2人が登校中に連れ去られ、遺体で見つかったいわゆる「飯塚事件」では、殺人などの罪に問われた久間三千年 元死刑囚(執行時70)の死刑が2006年に確定し、その2年後の2008年に執行されました。

元死刑囚は、一貫して無罪を主張し、家族が再審=裁判のやり直しを求めて3年前の2021年、2度目の申し立てをしました。

弁護側は、新たな証拠として
▽事件当日、通学路で被害者2人を最後に見たとされる女性が、「目撃したのは事件当日ではない」と当時の調書の内容をみずから否定した証言や
▽飯塚市内で元死刑囚と特徴が全く異なる人物が運転する軽乗用車に女児2人が乗っているのを目撃したとする男性の証言を提出し、元死刑囚は犯人ではないと主張しました。

一方、検察はいずれの証言も信用性がないなどと主張しています。

福岡地方裁判所は5日午前10時に、再審を認めるかどうかの判断を示すことになっていて、死刑が執行された元死刑囚の再審が認められた例はこれまでになく、裁判所の判断が注目されます。

「飯塚事件」とは

32年前の1992年2月、福岡県飯塚市潤野の住宅街で、登校中の小学1年生の女の子2人が行方不明になりました。

翌日、およそ20キロ離れた現在の朝倉市にある八丁峠の山の中で2人の遺体が見つかりました。

およそ3キロ離れた場所からは、2人のランドセルと衣類などの遺留品も見つかり、警察は、2人が学校に向かう途中に何者かに車で連れ去られ、首を絞められ殺害されたとみて捜査を始めました。

警察は、被害者の遺留品が見つかった場所の近くで事件当日、不審な人物と車が目撃されたとして車種を特定し、所有者の中から容疑者を絞り込んだとしました。

そのうえで、犯人のものとされる血液をDNA鑑定した結果などから、事件発生から2年後の1994年9月、久間三千年 元死刑囚を殺人などの疑いで逮捕しました。

当時56歳で、女の子が最後に目撃されたとされる通学路の近くに住んでいました。

元死刑囚は逮捕された当初から一貫して無実を訴えましたが、1審と2審に続き、2006年、最高裁判所でも死刑判決が言い渡されました。

判決は、車の目撃証言や、当時行われたDNA鑑定などは信用でき、状況証拠を総合すれば、合理的な疑いを超えて犯人だと認められると判断しました。

一方で、直接的な証拠は存在せず、一つ一つの証言や鑑定の単独の結果だけでは、元死刑囚が犯人だと断定できないと指摘しました。

判決が確定した2年後の2008年10月、福岡拘置所で死刑が執行されました。

元死刑囚は当時70歳で再審=裁判のやり直しを求めようと準備を進めているさなかでした。

その1年後、元死刑囚の家族が当時の警察のDNA鑑定は信用できないなどと主張して、再審を求めました。

福岡地方裁判所は2014年、犯人の血液と元死刑囚のDNA型が一致したとする鑑定結果は「直ちに有罪の根拠とできない」とした一方で、「元死刑囚が事件に使われた車と同じ特徴のある車を所有し、車内に残された血痕の血液型が被害者と一致したことなど、証拠を総合すれば犯人と認められる」として再審を認めず、福岡高裁も認めない決定をしました。

そして、3年前の2021年、最高裁判所も「DNA鑑定に関する証拠を除いたとしても、そのほかの状況証拠を総合すると犯人と認めた判断は正当だ」などとして退け、1度目の再審請求について再審を認めない判断が確定していました。

2度目の再審請求 最大の争点は“新たな証言”

2度目の再審請求では、事件当日の、被害者の女の子2人の最後の目撃者とされる女性の新たな証言をどう評価するかが、最大の争点になりました。

女性の当時の目撃証言は、確定した判決でも認定されていますが、女性は、今回新たに「目撃したのは事件当日ではない」などと当時の調書の内容をみずから否定し、弁護団は、警察官などの誘導で説明と違う調書が作られたなどと主張しました。

弁護団は、確定した判決ではこの女性の証言が、女の子が誘拐された時間帯や場所、それに犯行に使われた車の特定につながる重要な証拠の1つとなっていて、その信用性が否定されると元死刑囚の犯行だと結論づけた状況証拠が崩れると主張しました。

また、事件当日、飯塚市内の道路で元死刑囚と特徴が全く異なる人物が運転する白い軽乗用車の後部座席に女児2人が乗っているのを目撃したという男性が非公開の審理で証言しました。

弁護団は当時、元死刑囚とは異なる犯人が目撃された可能性があったのに警察が初めから元死刑囚を犯人視して矛盾する証拠に関心をもたなかったとしたうえで、2人の証言は、確定判決に疑いを抱かせる新たな証拠だと主張しました。

一方、検察は女性の新証言については、「女性のみが『誘拐現場付近で女児2人を目撃した』と話しているという事実の重みを抱えきれなくなり記憶違いだったと思い込むようになったものだ」と反論しました。

また、男性の新証言については「死亡推定時刻と合わない」などとして、いずれの証言も信用性がないなどと主張していました。

専門家「目撃証言 信用できるかがポイント」

飯塚事件の裁判のやり直しを求める2度目の申し立ての争点について、元刑事裁判官で法政大学法科大学院の水野智幸教授は「事件から長い時間が経過して、新たな証拠として出された2人の目撃証言が信用できるかがポイントだ。もし仮に信用性があると評価された場合、1度目の再審の申し立てで、当時のDNA鑑定の元死刑囚が犯人であることを示す力が大幅に低下しているので、すべての証拠の総合評価によって元死刑囚が犯人であることに疑いが生じることもありうるのではないか」と指摘しました。

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