老舗劇団「秋田雨雀(うじゃく)・土方(ひじかた)与志記念青年劇場」(東京都新宿区)が6月4日、能登半島地震で被災した高校を訪ね、2校の生徒ら約270人に出張公演をする。地震の前から予定されていた公演だが、被災で実現が危ぶまれていた。現地の先生たちが「こんな時だからこそ生徒たちにプロの演劇を見せたい」と要望し、使えなくなった会場を変更するなどして上演する。(五十住和樹)

「行きたい場所をどうぞ」の一場面=2023年2月、東京都内で(青年劇場提供)

◆「子どもに良質な演劇を」創設当時からの情熱

 青年劇場は、演出家の土方与志の教え子8人が1964年に旗揚げ。土方が「戦争で焼け野原になった日本の子どもたちに良質な演劇を届けたい」と学校公演を手がけてきたことを受け継ぎ、創設当時から毎年欠かさず全国の中高生に出張公演を続けてきた。  2023~24年度の演目は昨年2月、都内の定期公演で上演した「行きたい場所をどうぞ」(作・瀬戸山美咲さん、演出・大谷賢治郎さん)。駅の待ち合わせ広場に設置された、女子高校生の姿をした人工知能(AI)ロボットが、この街に引っ越してきたばかりの女子高生・光莉(ひかり)と「行きたい場所」を探して旅をする近未来の物語だ。  製作の白木匡子(きょうこ)さん(63)によると、学校公演は23年度、首都圏や九州の21校と、複数校合同の2舞台で上演。本年度は6月4日、石川県立能登高校(能登町)と穴水高校(穴水町)を皮切りに各地の中高生向けに上演する日程を立てていた。ところが、能登半島地震で生徒や先生らが被災し、会場の穴水町のホールが避難所になるなど使用不能に。それでも3月末、現地から上演の希望があり、「何としてでも演劇を届けたい」と準備を進めてきた。

◆寄付を募り実現「踏み出せば、何かが広がる」

出張公演に向けてけいこをする劇団員の竹森琴美さん(右)ら=東京都内で

 新たな会場は、被害が少なかった能登高の体育館。穴水高の生徒はバスで会場へ行く。体育館の狭い舞台を広げるため、長さ約4メートルの特設張り出し舞台を設け、上手と下手も広げる。これらの追加の資材や舞台セット、照明機材などを2台のトラックで運び、出演する7人を含め19人のスタッフが上演前日に会場で組み立てる。追加経費を補うため、5月の東京での公演会場で寄付を募った。

出張公演の会場となる能登高校体育館=青年劇場提供

 2人の主人公のうち光莉を演じる竹森琴美さん(21)は鹿児島県出身で、16年の熊本地震で怖い思いをしたという。「震災でつらい思いをしている高校生たちを前に、自分の足で踏み出したら何かが広がるというこの作品を、丁寧に演じたい」と意気込む。  石川県は県内全ての高校が参加する演劇や音楽の合同鑑賞会を毎年続け、舞台芸術に力を入れてきた。能登高の屋敷秀樹校長(59)は「本物の演劇を見て、感動したり相手を思いやる心を感じたりして、その時間だけでも非日常を体験して心の癒やしにしてほしい」と話している。 

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