東京・池袋で2019年4月に母子2人が死亡した乗用車暴走事故の遺族、松永拓也さん(37)らが29日、関東地方の刑務所を訪れ、事故を起こした旧通産省工業技術院の元院長の男性受刑者(92)=自動車運転処罰法違反(過失致死傷)の罪で禁錮5年=と、判決確定後では初めて面会した。

◆「早く免許を返すように伝えて」

松永さんは、事故の再発防止について意見交換するため、男性に面会を求めていた。事故で亡くなった妻真菜さん=当時(31)=の父、上原義教さん(66)も同席。面会後、報道陣の取材に応じた。

受刑者との面会を終え、記者団に話す松永拓也さん㊧と真菜さんの父・上原義教さん=関東地方で

松永さんらによると、男性は車いすで現れ、背筋を伸ばすのも難しい様子だった。衰えからか、話そうとしても言葉が出てこない場面がほとんどだったが、再発防止で高齢者らに伝えたいことを問われると「早く免許を返すように伝えてください」と語った。 松永さんは「免許返納に関しては、思いが強い言葉なんじゃないか」と受け止めた。 男性は、松永さんの投げかけに「はい」と答える形で、通院支援があれば自身の免許返納を考えたことや、免許を返納した高齢者たちへの行政支援を望む考えも示した。対話は40分余りだったという。

◆松永さん「彼の勇気を無駄にしないで」

松永さんは面会後の取材で、「彼を糾弾するのでもなく、誹謗中傷するのでもなく、彼の言葉をヒントにして、同じような加害者、被害者や遺族を生まないために、自分たち1人1人に何ができるのかっていうことをぜひ考えていただきたい」と望んだ。 国や自治体に対しては、運転免許の自主返納に悩む高齢者らがいることを念頭に「高齢者自身の決断だけ、そのご家族の決断だけに任せるのではなくて、どうやったら免許返納を決断しやすくなるのか、どうやれば免許返納した後も幸せに生きていけるのか、ぜひこれからも考えていただきたい」と要望。 「彼の言葉を、面会を受けたという勇気を無駄にしないであげてください」と力を込めた。 上原さんは、男性の態度に反省を感じたといい、「出所したら家族と穏やかに過ごしてください」と語りかけたと明かした。

受刑者と松永拓也さん、真菜さんの父・上原義教さんが面会した部屋=関東地方で

◆男性から「お詫びの手紙」

面会中には、男性から謝罪の言葉はなかった。ただ、男性は2022年9月付けで直筆の「お詫びの手紙」を書いていた。家族を通じて今年、松永さんに渡された。 ふるえる文字で「字がきれいに書けず、いずれは手紙でお詫することができなくなるのではないかと恐れた」(原文ママ)と筆を執った理由を書き、「もっと早くに車の運転を止めていれば、今回の事故を起こさないで済んだと思います」と後悔や反省をつづった。 面会の最後には、男性は絞り出すような声で「ありがとう…ございました」と語ったという。 松永さんは、面会でのやり取りを再発防止につなげようとする動機について、「家族にも見ず知らずの人にも愛をくれた」真菜さんのような生き方をしたいからだとも語った。涙で目を赤くしながら、「きれいごとだって言われるかもしれないけど、これが僕の生き方だし、(真菜さんたちを)弔うことだと信じている」と述べた。 事故は、当時87歳だった男性がブレーキと間違えてアクセルを踏み続けて車で赤信号の交差点に進入し、自転車で横断歩道を渡っていた松永さんの妻真菜さん=当時(31)=と長女莉子ちゃん=当時(3)=をはねて死亡させた。他に9人が重軽傷を負った。(福岡範行、小寺香菜子) ▶次ページ:男性はどう答えた?面会での詳しいやり取り に続く 前のページ
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