各国の企業活動における人権問題などを調べて対応を促す国連人権理事会の「ビジネスと人権」作業部会は、去年7月から8月にかけて初めて日本で調査を行い、日本政府や企業などに対する提言をまとめた報告書を公表しました。
この中では、旧ジャニーズ事務所の元社長、ジャニー喜多川氏による性加害問題についても言及していて「数百人のタレントに関わる性的搾取と虐待の申し立てに引き続き深い憂慮を抱いている」としています。
また「日本のメディアは何十年もの間、このような不祥事の隠蔽に関与してきた」とした上で「人権への影響を慎重に検討し、影響力を行使することが依然として重要だ」と指摘しています。
その上で、旧ジャニーズ事務所から社名を変更した「SMILE-UP.」が被害を申告した人に補償金の支払いを進めている点について「努力は認める」としつつ、「救済を求めている被害者のニーズを満たすにはまだ遠い」とし、被害者のメンタルケアや補償をめぐる費用負担についても課題を指摘しています。
今回の報告書全体では「女性や高齢者、子ども、障害者、先住民族などに対する不平等と差別の構造を完全に消滅させることが緊急に必要だ」とした上で、政府に対し具体的な取り組みを求める勧告をしています。
報告書は6月下旬に国連人権理事会に提出される予定です。
国連人権理事会の「ビジネスと人権」作業部会は、2011年に国連人権理事会で企業の人権尊重に対する責任を盛り込んだ「ビジネスと人権に関する指導原則」が全会一致で支持されたことを受けて設置された組織です。
作業部会では政府や企業が指導原則にもとづき、人権上の義務や責任を果たそうと取り組んでいるか評価するため、人権理事会が任命した専門家を各国に派遣して調査を行っています。
調査結果は政府に対する最終的な見解や勧告を含む報告書として作成され、国連人権理事会に提出されることになっています。
たとえば、2017年のカナダでの調査では先住民族に対する権利侵害などが、2021年のイタリアでの調査では移民の労働問題などが報告されています。
報告書に法的拘束力はありませんが、各国には指摘された人権課題に対する取り組みが求められます。
国連人権理事会の発表によりますと、作業部会による日本での調査は今回が初めてで、派遣された2人の専門家は、去年の7月24日から8月4日まで東京や大阪、福島などを訪れ、自治体や市民団体、企業や業界団体の代表などと会談したということです。
ジャニー喜多川氏による多数の少年への性加害問題をめぐる経緯とその後の対策をまとめました。
経緯
去年8月、当時のジャニーズ事務所が設置した専門家による特別チームが調査報告書を公表し、ジャニー氏がおよそ60年にわたり多くの未成年者に対し、性加害を繰り返したと認定したうえで適正な補償制度を構築するよう指摘しました。
これを受け、事務所は9月と10月に合わせて2度会見を開き、ジャニー氏の性加害を認めて謝罪したほか、社名を「SMILE-UP.」に変更して被害を受けた人たちへの補償業務に専念し、将来的には廃業することを明らかにしました。
補償
会社側の発表によりますと、5月15日までに窓口に被害を申告した人は989人に上り、このうち被害の事実確認を終えたとして会社側が補償額を通知した人は478人。
そのうち424人が合意し、395人に補償金の支払いを終えたとしています。
また、会社が在籍や性被害の確認ができないと判断した93人には、補償を行わないと通知したとしています。
新会社の対策
一方、タレントたちのマネージメントなどは、新会社の「STARTO ENTERTAINMENT」が、行うことになり、4月、企業内の体制などを発表しました。
この中では「ジュニア」と呼ばれるデビュー前の子どもたちに関連し、東京と大阪の育成部門にはそれぞれ専任の担当を配置したうえで、担当者が子どもたちの意見を尊重して立場を擁護し、本人の意見を代弁する役割を担うとしています。
このほか性加害を含む違法行為を起こさないため、従業員やタレント、ジュニアに向け、人権尊重や性加害問題などについて学ぶ研修を実施するほか、タレントやジュニアも利用できる通報制度を整備するなどとしています。
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