定額減税への準備は?

定額減税が来月から実施されるのを前に、各地の税務署では、給与を支払う事業者向けの説明会が行われています。

国税庁は3月下旬から全国で説明会を開いていて、東京・渋谷区の税務署で行われた28日の説明会には、企業の経理担当者など74人が参加しました。

この中では、税務署の職員が減税の対象者となる扶養家族の考え方や、減税額を給与明細に明記する必要があること、従業員ごとに対応が異なり、年末調整の際に精算が生じる場合もあることなどを説明していました。

参加者からは事務負担への懸念も聞かれました。

中央区にあるIT企業の男性
「きょうの説明会に出て何が分からないかがはっきりしたという段階で、準備は全然進んでいない。6月の開始までもう時間がないが、税理士や社会保険労務士の人と相談してなんとか間に合わせるしかないと思う」

渋谷区にある飲料水メーカーの女性
「給与計算にはソフトを使っていますが、正しく使うためには複雑な制度を理解する必要があると感じた。減税自体はいいと思うが、事務面での負担が大きく、給付などほかのやり方がなかったのか疑問に思う」

そもそも定額減税とは

今回の定額減税では、1人あたり年間で▽所得税が3万円、▽住民税が1万円減税されます。納税者本人だけでなく扶養している子どもや年収103万円以下の親族らも減税の対象となります。

例えば、夫婦と子ども2人の4人家族の場合、共働きかいわゆる「片働き」かにかかわらず世帯全体では、▽所得税が12万円▽住民税が4万円のあわせて16万円が減税されます。一方で、減税の時期や方法は、所得税と住民税で異なるほか、会社員か個人事業主かといった働き方によっても違います。

高額所得者は除外
定額減税は富裕層を対象とすべきではないとして、年収が2000万円、所得が1805万円を超える人は対象外となりました。

給与所得者の場合は

まず、毎月の給与やボーナスから源泉徴収で所得税が差し引かれている会社員などの給与所得者の場合です。

所得税の減税は勤務先の事情にもよりますが、早ければ6月に受け取る給与やボーナスから反映されます。ボーナスなどで所得が多ければ6月分だけで全額減税されるケースもあります。

一方、扶養家族の人数や所得によっては、6月分の納税額から減税額すべてを差し引けないことも想定され、その場合、7月以降の所得税から順次、差し引くことになります。

<国税庁の資料に示されている具体的なケースでみてみます>
本人と扶養家族3人で所得税の減税額が12万円の場合です。

本人の毎月の給与にかかる所得税が1万1750円、6月のボーナスにかかる所得税が9万3000円だと仮定すると、6月の給与とボーナスが支払われる際に、あわせて10万4750円減税されますが、12万円には届きません。

このため、7月の給与でも1万1750円減税され、それでも残る3500円分は8月に減税されます。

一方で住民税は、6月分の納税額が0円となります。その上で減税分を反映させた1年分の納税額を、7月以降の11か月に分割して納税することとなります。

個人事業主の場合は

次に個人事業主の場合です。

原則として来年行われる確定申告の際に減税が適用されます。ただ、個人事業主は、前年の所得や税額が一定以上の場合、確定申告の前に一部の額を納税する「予定納税」という制度があります。予定納税の対象となる個人事業主に対しては、7月の1回目の予定納税の際に本人分の3万円の減税が適用されます。

1回で減税しきれない場合は、11月に行われる2回目の予定納税に繰り越されます。また、予定納税にあわせて扶養家族の分の減税を受けるには税務署に申請手続きが必要となります。

一方、納付している住民税は、扶養家族の分を含めて6月分から減税されます。

年金受給者の場合は

公的年金を受け取っている人の場合です。

公的年金も社会保険料などを差し引いた分が一定の金額以上の人には所得税がかかるため減税の対象となります。公的年金は2か月に1回、偶数月に支払われるため、6月分の支給で減税しきれない分は、8月以降の支給に繰り越されます。

また年金を受け取りながら働いて給与所得もある人の場合いずれも減税の対象となり、確定申告などで精算するケースもあります。

【ねらいと課題】
今回の減税の規模について、政府は▽所得税がおよそ2兆3000億円、▽住民税が9200億円余りと見積もっています。

政府は、ことしの春闘による賃上げが実際に給与に反映される時期にあわせて減税を行うことで、手取りの増加を実感してもらい、デフレ脱却を確かなものにしたいとしています。

しかし、一律の給付に比べて制度が複雑なことや、減税が複数の月にわたって行われるケースも多いことから、手取りの増加を実感しにくく効果が薄いのではないかという指摘も出ています。

減税しきれない分は給付で

定額減税では扶養家族も含めて1人あたり4万円が減税されるため、子どもなど扶養家族が多い人は年間の納税額から減税額すべてを差し引けないというケースが想定されます。

また、単身者でも年収が低く年間の納税額が4万円に満たない場合もあります。政府はこうしたケースでは、減税しきれない分を給付で補うことにしています。

給付は事務負担を軽減するため1万円単位で行われます。

例えば、減税しきれない額が1万5000円となる場合、給付額は2万円となります。政府は、所得税と住民税を納めているおよそ6000万人のうち、減税額すべてを差し引けず給付が行われる対象者の数をおよそ2300万人と推計しています。

納税額の確定を待つと給付の時期が大幅に遅れてしまうことから政府は減税と並行して給付を行うことにしています。

具体的には、それぞれの市区町村が過去の納税額の実績などをもとに減税しきれない金額とそれに伴う給付額を推計し、夏ごろから順次、対象者に給付の申請書を送付するということです。また、納税額が確定する段階で収入が大幅に減少したり、扶養家族が増えたりして給付額が足りなかった人には、来年以降、追加の給付も実施します。

このほか、政府は住民税の非課税世帯や住民税の均等割のみ課税されている世帯に対しては、去年から順次10万円の給付を進めているほか、子育て世帯にはさらに手厚い支援が必要だとして、18歳以下の子ども1人あたり追加で5万円の給付を行っています。

シングルマザーの女性“家計が助かるも 将来へ不安”

東京都内のシングルマザーの女性(40)は定額減税によって家計が助かるとする一方で、将来への不安も感じているといいます。

女性は、正社員として医療関係の事務の仕事をしながら、4歳の男の子を育てていて、年間の給与所得は200万円程度。母子世帯の平均的な水準です。

毎月の手取りはおよそ15万円。食費を月1万5000円に抑えられるよう切り詰めて生活をしています。

栄養面を考えて毎日、子どもに飲ませている牛乳が数十円値上がりしたほか、葉野菜などの生鮮食品も値上がりし、業務用の冷凍野菜などを買って節約しているということです。子ども食堂の弁当やフードバンクの食料をもらうことも多いといいます。

「率直に手取りが増えることはうれしいです。ただ、定額減税のあとも、給料が上がるわけではないので生活費が足りないときのためになるべく貯蓄したい。生活を続けていけるのか、毎日、不安な気持ちです」

企業からは事務作業の負担に懸念も

今回の定額減税について企業からは事務作業の負担を懸念する声も上がっています。

大田区にある金属加工を手がける工場では従業員11人の給与の計算などを経理担当の木村美子さんが1人で行っています。

今月上旬から国税庁のパンフレットを読み込んで今回の減税の仕組みを確認し、従業員一人一人について扶養家族分も含めた減税額を計算するなど準備に追われています。

この工場では来月下旬の給与の支給から減税を反映する予定ですが、従業員の給与から計算すると所得税3万円分の減税を受けるには年末まで毎月、減税が続く人が大半だということです。

木村さんは毎月の減税額を入力して残りの減税額が把握できる帳簿を作成し、従業員ごとに異なる減税の進捗(しんちょく)具合を正確に管理しようとしています。

一方で国によって義務づけられた給与明細への減税額の記載は、ふだんから明細書の作成を依頼している業者が追加の料金なしで対応してくれるということです。

経理担当 木村美子さん
「1回の減税で済まずに数か月にわたって事務作業が増えることが大変だと感じる。手続きの間違いがないよう来月の給料日までにしっかり準備したい」

墨田区役所では準備に追われる

今回の定額減税では、1人あたり年間で所得税が3万円、住民税が1万円減税され、このうち、住民税については、地方自治体が対応にあたります。

東京・墨田区役所では、定額減税が来月から始まるのを前に、個人事業主などを対象にした納税通知書に誤りがないか確認するなど準備に追われていました。

また区民からの問い合わせも増えているということで、区は今月号の広報紙に定額減税についての記事を掲載しました。

この中では給与所得者、個人事業主、それに年金生活者で減税を受けられる時期や方法が異なることが図やイラストを使って解説されています。

さらに区のホームページでも定額減税のコーナーを設けました。

墨田区税務課 井上貴文課長
「物価高騰対策として区民の生活に直接影響する内容なので、関心が非常に高いと感じている。ただ区民にとってわかりにくい制度だと思うので、わかりやすく伝えることに腐心している。問い合わせに丁寧に対応するために私たち自身が制度に習熟する必要がある」

デジタル庁 給付額を自動計算するシステム提供

定額減税と並行して行う給付は市区町村が事務を担いますが、デジタル庁は、事務の迅速化に向けて給付額を自動計算するシステムを提供しています。

このシステムでは、過去の住民税の納税額や扶養家族の人数などを入力すると、所得税分も含めて減税しきれない金額がどれだけあり、それに見合った給付額はいくらかを自動で計算します。

デジタル庁によりますと全国のおよそ9割の市区町村がこのシステムを利用するということです。

鈴木財務相「協力をお願いしたい」

鈴木財務大臣は28日の閣議のあとの記者会見で定額減税に伴う企業などの事務負担について「今回の定額減税は所得の伸びが物価上昇を上回る状況をつくることでデフレマインドを払拭(ふっしょく)するきっかけとするために実施するものだ。源泉徴収を行う企業の事務負担が増えることは事実だが、目的を理解して頂き、協力をお願いしたい」と述べました。

また、鈴木大臣は定額減税を複数年度にわたって実施する考えがあるか問われたのに対して、「考えていない」と改めて否定しました。

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