◆様変わりする街「都に裏切られた」
イチョウ並木のベンチで都や三井不動産の説明会を振り返る地元自治会長の近藤良夫さん=東京都港区で
新緑の季節を迎えた、外苑のイチョウ並木。若葉の間に、陽光がきらきら輝く。「春の並木もいい。空が広く、光がたくさん入る」。近くの都営アパートに住む近藤良夫さん(75)が深呼吸した。 計画では並木の南西に神宮球場が建て替えられ、その奥に高層ビルが建つ。事業者は「4列のイチョウ並木は保全する」と約束するが、近藤さんは「空が狭くなれば、景観は変わる」と心配する。 近藤さんが再開発の内容を知ったのは2019年春。事業者の住民説明会で、スポーツ施設と合わせて高層ビルやホテルを整備する構想が示された。街が様変わりする計画に「都に裏切られた」と感じた。◆説明を省いた?都は「確認できない」
その理由は、近藤さんが18年秋に参加したという都主催の住民説明会にある。都職員は策定されたばかりの「まちづくり指針」を説明。「具体的に何をするのか」という質問に「球場とラグビー場の場所を入れ替えて建て直し、その間を広場にする」と答えた。近藤さんは「それだけなら」と納得した。 しかし、この指針には大事なことが潜んでいた。高さ制限を緩和するため、一部区域を公園指定から外す特例「公園まちづくり制度」の適用だ。近藤さんは18年の都の説明会で、高層ビルが建つ可能性を聞いた記憶がない。「反発を恐れ、説明を省いたのではないか」と疑う。都都市整備局は取材に「当時の記録を確認できない」と答えた。◆樹木保全計画を求めたが批判やまず
22年に、大量の樹木を伐採する計画の全容が明らかになると、猛烈な反発が起きた。翌年に事業認可した小池百合子都知事は「法に基づいて適正に進めた」と強調する。 確かに住民説明会、計画や環境影響評価の縦覧、審議会などの手続きは経ている。都はさらに、事業者に樹木の保全計画の具体策を示すよう要請した。それでも、事業に対する批判の声は収まっていない。明治神宮外苑地区再開発 明治神宮や三井不動産など4者がスポーツの拠点として28.4ヘクタールを整備する計画。神宮球場と秩父宮ラグビー場を建て替えるほか、高さ185メートルと190メートルのオフィスビル2棟、宿泊施設が入る80メートルの複合ビルを新たに建てる。892本の樹木を伐採する計画が批判を浴び、事業者は伐採本数を743本に減らした。4列のいちょう並木は保全するが、球場が隣接して生育への影響が懸念される。
◆再開発の負担、説明怠ってはいけない
「樹木を含む公園の環境は、都市計画や都市公園法で守られている。外苑でその規制を外した判断について、都の説明は十分ではない」。駒沢大の内海麻利教授(都市計画学)が指摘した。再開発に揺れる東京・明治神宮外苑地区(2023年12月撮影)
情報開示に消極的な日本と比べ、欧米では自治体が積極的に市民参加を促す仕組みがあるという。フランスでは都市計画や開発計画を策定する際、開始から最終案に至るまで市民を参加させることが、法律で義務付けられている。早い段階で情報が周知され、計画の透明化が図られる。 都は再開発を促す地区として、364地区を指定している。内海教授は「人口が減少し経済が縮小する社会で、老朽化する都市を維持・再生するため、税などの負担に加え、大切な景観や環境を手放すことを住民らに強いることになる。その判断や実施に当たり、丁寧なプロセスと説明を怠ってはいけない」と述べた。 鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。