裁判員の候補者は選挙権を持つ人の中から毎年抽せんで選ばれ、さまざまな事情で辞退が認められた人を除いたうえで、裁判所で行われる「選任手続」でさらに抽せんなどを行って決まります。
最高裁判所のまとめによりますと、この手続きへの候補者の出席率は2009年のスタート当初は80%を超えていましたが徐々に低下し、去年は68.6%でした。
対象となった候補者のおそよ3人に1人が無断で欠席したことになります。
最高裁は、審理期間の長期化や制度への関心の低さなどが出席率の低下に影響しているとみていて「裁判が開けない事態は確認されていないが、出席率の低下は制度の安定性の根幹に関わる課題だ」として、広報活動など対策を進めています。
“真剣に議論し改める必要”
裁判員制度の設計にも携わった國學院大学の四宮啓名誉教授は裁判員を選ぶ手続きへの出席率の低下について「裁判員制度を担う国民が少なくなっているということで、制度の本質に関わる深刻な問題だ。裁判員制度のニュースも減り、生活の一部になったのならよいが、国民から忘れられようとしているなら問題だ。真剣に議論して改める必要がある」と指摘しています。
四宮名誉教授によりますと、陪審員として市民が裁判に参加するアメリカの州では制度への理解を広めるため、裁判所が記念日を設けて毎年イベントを開いたり、陪審員を務めた有名俳優が経験を語る場を設けたりしているということです。
四宮名誉教授は「日本でも裁判所が進んで裁判員裁判への参加の必要性を国民に訴えることが重要だ。裁判員を経験した人は、裁判所のアンケートに『よい経験だった』と語る人が多い。一番大事なのは、こうした経験が社会で共有されることだ」と述べ、裁判所が先頭に立って対策を進めるべきだと訴えていました。
参加した裁判員の意見は
出席率の低下について、今月、東京地方裁判所での裁判員裁判に参加した、裁判員や補充裁判員に意見を聞きました。
裁判員を務めた20代の男性は「貴重な体験ができると思ったので参加に迷いやためらいはなかったです。周りに裁判員の経験者もおらず制度や審理の流れについてわかりやすいものが見当たらなかったので、経験者の声などが広がればやりたいという人がもっと出てくるのではないかと思います」と話していました。
80代の男性は「裁判員制度自体がよくわからず『別に関係ない』というスタンスの人が多いと思う。制度の詳細は経験しないと話すことができないので、事前に経験者の話を聞くことができる機会は大事だと思う」と述べ、今後は自分自身も経験を伝えていきたいと話していました。
補充裁判員として参加した20代の男性は「昔ながらの方法ではなく、動画やSNSなど今の時代に合わせたツールを使って広報に努めていくといいと思います」と話していました。
再び候補者に選ばれた裁判員 “経験者の話聞き参加決めた”
福岡県志免町の中島真由美さん(57)は、去年10月、福岡地方裁判所で行われた刑事事件で裁判員を務めました。
おととし11月、最高裁判所から裁判員候補者の名簿に記載されたことを知らせる封筒が届きました。
中島さんはおよそ10年前にも裁判員の候補者に選ばれましたが、当時は子育てで忙しかったうえ、制度についてよく知らず放置してしまった経験があります。
去年、再び候補者に選ばれた際は子育てが落ち着いていたことに加え、参加する前、裁判員経験者などでつくる団体を通してやりがいなどを聞いていたため参加を決めました。
裁判員を務めたのは強盗傷害事件の裁判だったということで、中島さんは「全てが初めてで、1人が罪を犯すことでこんなに多くの人が関わっているのだと感じました。法律だけで裁かれていると思っていましたが、そうではなく心情面も含めみんなの意見で進んでいくと思いました」と話していました。
そのうえで「経験者の方の話を聞けると安心して裁判員として参加できると思います。私も経験したことを周りに伝えていきたい」と話していました。
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