引っ越し大手のサカイ引越センター(堺市)が4月、社員に対し、社側が独自に計算した過去1年分の精算金の支払いと引き換えに、未払い賃金などの請求権を放棄させる文書を配布していたことが分かった。当時は、元作業員が未払い残業代などを求めた訴訟の控訴審判決が控えていた。元作業員側の弁護団は「賃金債権を放棄させるもので悪質だ」と批判している。(竹谷直子)

◆社員にサイン求める「同意書」配布

 文書は「確認書兼精算同意書」のタイトルで田島哲康社長宛て。現役の社員が原告弁護団に情報を寄せた。同社の担当者は取材に「(文書は)当社から従業員に説明を行った上で、内容に同意された従業員から提出いただいたものです」と回答した。

サカイが社員らに配ってサインを求めた「確認書兼精算同意書」

 訴訟では、元作業員兼ドライバーの3人が、月約6万〜7万円の基本給のほか、売上額に応じた出来高払いの「業績給」などの手当が支払われていたが、賃金を抑えるための不当な制度だと主張。昨年8月の一審東京地裁立川支部の判決では、3人の職務内容には出来高払いが当てはまらないとして、未払い残業代計約950万円と、制裁に当たる「付加金」計約620万円の支払いを命じた。今月15日にあった控訴審判決でも、東京高裁が一審判決を支持し、サカイ側の控訴を棄却した。  弁護団によると、社側は今年4月中旬ごろ、「業績給」制度が適正だとする内容の動画を社員に見せる説明会を開き、文書を配布。「会社から任意の支払いとして、過去1年の範囲で一定の割合で計算した精算金を現業職に支払う予定であるとの説明を受けた」とした上で、訴訟の結果にかかわらず「精算金の支給を受けた場合は、それ以前の賃金を含む人件費一切につき、会社との間に債権債務がないことを確認します」などと同意する形になっている。労働基準法の運用では、未払い賃金について過去3年分まで請求できるとなっている。

◆「手当を上げる手続き」と言われサインした人も

 弁護団によれば、情報を寄せた社員は「サインするのが当然という雰囲気だった」と証言。関東圏でアルバイトする男性も「手当が上がると言われ、その手続きの一環としてサインをしたと社員から聞いた」と話しているという。

サカイ引越センターの梱包材(公式HPよりスクリーンショット)

 弁護団は、高裁判決でも支払いが命じられた場合、少なくとも約2000人いるドライバーなどへの支払いが生じることなどを恐れた対応とみている。弁護団の村松暁弁護士は「判決で否定された給与体系を温存し、残業代の未払いを継続しようとしている。判決が示した方向性に逆行するもので撤回すべきだ」と訴える。  未払い残業代の問題などに詳しい佐々木亮弁護士は「残業代の支払いを命じる判決が出ているのに、それを放棄させる文書を労働者に書かせているのは非常に悪質だ」と指摘する。 

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