生まれて間もない子猫は、カラスに襲われたらしい。けがの後遺症で下半身がまひし、前脚だけを使って歩き始めた。寄せられた好意で購入した車いすに下半身を載せ、元気に歩き回っている。

 2022年4月、三重県伊賀市の神社。犬の散歩をしていた人が生後3週間から1カ月ほどの子猫を見つけた。茶トラのメス。顔や脚から出血し、瀕死(ひんし)だった。周囲にはカラスの鳴き声。くちばしで突っつかれた傷もあり、脚の骨は折れていた。

 動物保護団体「ねこのしっぽ」代表の水本美恵子さん(72)=同市ゆめが丘4丁目=が引き取った。片手に載るほどの大きさで、わずか300グラム。元気な少女に育って、と「ハイジ」と名付け、水本さんはミルクを24時間態勢で与えた。

 脊髄(せきずい)も傷ついていたらしい。2カ月ほどたっても、ハイジは腰から後ろが動かなかった。それでも家の中を前脚を使って活発に動き回り始めた。保護団体を始めて十数年になる水本さんにとって、下半身不随の猫は初めて。おしりが荒れないよう、おむつを付けて1日3回取り換える。

 同年9月、地元タウン情報紙に紹介されると、同県名張市の女性から「行動範囲が広がる」と車いすを購入するための寄付金が寄せられた。水本さんはハイジの成長を待ってから昨年夏、車いすを購入。車輪の付いたU字形フレームに下半身を載せ、テープひもで固定すると、元気に歩き始めた。

 2歳になり、体重3キロ弱まで成長したハイジ。後ろ脚やおしりに筋肉はないが、前脚はがっちりしてたくましい。人なつっこく、初対面の人にも寄っていき、ゴロゴロとのどを鳴らす。水本さんが保護する二十数匹の猫とも仲良しだ。暖かくなると、車いすを付けて自宅周囲を散歩する。

 水本さん自身も、交通事故の影響で左半身が不自由に。カート(手押し車)につかまり、車いすのハイジにひもを付けて散歩する。「ハイジの生命力のすごさに驚いています。生きているってすごいな。この子がいるから、自分も生きている。元気をもらっています」(小西孝司)

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