◆国会で審議中 反則金の額は5000〜1万2000円か
松村祥史国家公安委員長=4月1日撮影
「自転車の交通ルールの順守を図るため、実効性のある責任追及を可能とする交通反則通告制度を導入することにした」 松村祥史国家公安委員長は12日の衆院内閣委員会で、自転車の交通違反に交通反則切符(青切符)を交付し、反則金を徴収する制度を導入する道交法改正案について説明した。車やバイクはすでに反則金制度があるが、自転車は対象外だった。今国会で成立すれば2026年までに施行され、取り締まりが大きく変わる。 改正案は、義務教育を終えて最低限の交通ルールを知っているとして16歳以上を取り締まりの対象とする。青切符の対象は、以前から違反行為とされてきたスマートフォンや携帯電話の使用、右側通行などの通行区分違反、歩道での通行方法違反、指定場所一時不停止といった約115種類。反則金額はミニバイクが違反した場合と同程度の5000〜1万2000円になる見通しだ。◆反則金では済まない「赤切符」も存続
酒酔い運転や酒気帯び運転、スマホや携帯電話の使用で危険を生じさせた場合には青切符ではなく、刑事処分の対象となる交通切符(赤切符)を切る。警察庁や国家公安委員会が入る東京・霞が関の中央合同庁舎第2号館
警察庁によると、取り締まりは、通勤や通学の時間帯や事故が増える薄暮の時間帯を重点に、各警察署が選定する駅周辺や通学路などの自転車利用者が多い地区や路線で実施する方針。警察官の指導や警告に従わなかったり、歩行者を避けさせるような危険を生じさせたりした場合に、反則金を徴収するよう運用していくという。 これまでの自転車の取り締まりでは、軽微な違反は指導警告にとどめ、悪質で危険性の高い違反に赤切符を切っていた。だが赤切符は起訴を見据えた捜査となり供述調書の作成などに時間や手間を要する一方、ほとんど起訴されなかった。反則金制度が導入されれば、捜査機関の負担軽減にもつながる。◆なぜ今? 「自転車も車と同様の取り締まりが必要」な状況
自転車は免許なしで幅広い年齢層に利用され、国民に最も身近な乗り物だ。 自転車産業振興協会によると、22年度の国内保有台数は推計5640万台で、国民の2人に1人に普及している計算。コロナ禍をきっかけに通勤・通学で増えたほか配達、シェアリングサービスの広まりで使う機会も増えている。政府も環境負荷の軽減や、国民の健康増進を図ろうとして自転車の利用を推進してきた。 そんな中での青切符の導入の背景には、悪い走行マナーの横行がある。22年の自転車による交通違反の摘発は全国で2万4549件に上り、13年と比べ3.4倍に急増した。同年の交通事故全体のうち、自転車が関係する事故の割合は23.3%と過去最高を更新。さらに自転車が関係した死亡・重傷事故の約4分の3で自転車側に違反があった。 反則金制度導入を決めた有識者検討会による事故被害者の遺族へのヒアリングでは、「『自転車は車の仲間ではない』という一般的な感覚がある印象を受ける」「自転車も車と同様の取り締まりが必要」との結果が報告された。◆自転車が多い街に行くと…右側通行の自転車がゾロゾロ
自転車の走行マナーはどうなっており、利用者らは反則金制度の導入をどう受け止めるのか。4月上旬の昼下がり、東京新聞「こちら特報部」は大衆酒場が軒を連ね、1000円で気持ちよく酔える「せんべろ」の街として知られる赤羽(東京都北区)に向かった。車道を右側通行し、逆走する自転車=東京都北区赤羽で
15〜18、20年と過去10年で5度、都内で最も放置自転車が多い駅として話題になった赤羽。駅周辺に有料駐輪場が設けられたこともあり、直近3年はワースト5から外れている。 駅東口の商店街「赤羽1番街」のアーチ看板の近くに立っていると、そばの車道を右側通行の自転車が1台、2台…と通り抜けた。対向から来る左側通行の自転車がすれ違う際、右側通行の自転車を避けようとレーンから膨らむ場面もあった。 買い物帰りの女性(36)に聞くと、「警察がよく『右側は走らないで』って指導してるけど変わらない」とため息。右側通行の自転車が向かった先には駐輪場が設けられているという。たしかに車道を見ていると斜め横断してくる自転車も。片手をハンドルから離し、スマホを操作しながら渡る男性もいた。◆歩行者専用道路なのに…反則金導入「仕方ない」
少し東に歩いてスクランブル交差点を渡ると、別の商店街があった。入り口の大きな黄色い幕には「歩行者専用道路での自転車運転は道路交通法違反」の文字。ここは正午〜午後8時、自転車は降りて通行しなければいけないようだ。歩行者専用道路の時間帯だが、降りずに走行する自転車が商店街を行き交った=東京都北区赤羽で
商店街に入ってすぐ、電動アシスト自転車が記者の真横を後ろから不意にびゅんと通り抜けた。「もし横に動いていたら…」と考えると青ざめる。道幅は狭くないが駐輪スペースもあり、買い物客も多い。「自転車を降りて押して」と呼びかける看板を無視するように自転車が走っていく。 近くで働く星原清孝さん(51)は1年前、高齢女性が飲食宅配代行サービスの自転車の外国人と接触し、救急車で運ばれる事故を見たという。「僕もここで何度もぶつかりそうになった」。道交法改正の動きを把握しており「悪質自転車への反則金は仕方ない」と歓迎する。◆「いつから始まる制度なの」 反則金に効果あり?
脇で10分ほど観察すると、顔を赤らめて蛇行しながら運転する高齢男性や、立ちこぎで猛スピードで通り過ぎる若者、片手スマホの男子学生ら10台ほどの交通違反を目撃した。地元の自営業の男性(56)は「降りないといけないのは分かるけど、急いでいるとつい乗ってしまう」。反則金について聞くと「そもそも自転車のルールをしっかり学んだことないけどな。いつから始まる制度なの」と不安げだった。駐輪場(写真と記事は直接関係ありません)
地元の会社員西崎知宏さん(43)は「改正の動きは知らなかった」と驚いた。電動アシスト自転車で子どもの送り迎えをしているといい、「歩道を走ることが多いけど、朝は急いでいるからスピードが出ているかも」と苦笑い。「どんな違反で取り締まられるのか分からないので注意して運転します」と話した。◆「ルールをよく知らない」が4割以上
たしかに警察庁が昨年行ったアンケート結果では、利用者が守れている自転車の交通ルールとして「原則、車道の左側を通る」は56.2%、「歩道通行時、車道寄りを徐行する」は48.7%で5割に満たなかった。守らない理由として「ルールをよく知らない」が4割以上を占めて最も高い。 交通政策に詳しい桜美林大の戸崎肇教授は「国民に自転車の危険性を認識させることは大切」と反則金導入を評価した上で、「自転車は免許を取らずに乗れるので交通ルールを理解していない人は多い」と強調する。「外国人や年配者も利用しており、学校教育での啓発だけではすくいきれない。ルール周知を徹底できないと、社会的な不公平を生む制度になりかねない」として、「制度の運用方針を分かりやすく市民に伝えないと自転車利用の阻害にもつながる」と指摘した。◆デスクメモ
放置自転車が多かった赤羽を取材したのは10年ほど前。この時も規制強化の話があり「気軽に乗れなくなる」と渋い顔をする人もいた。運動音痴の私としては狭い車道を自転車で走るのも怖いが、歩道を疾走されるのもまた怖い。危うい場所は無理にこがずに押して歩くを心がけたい。(恭)
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