対面で切符を販売する「みどりの窓口」の削減計画について、JR東日本は8日、凍結すると発表した。新型コロナ禍で低迷する旅客需要を背景に、コスト削減を念頭に置きながら「乗車スタイルの変革を加速する」として、3年前に肝いりで導入した策だったはず。今になってなぜ、ブレーキをかけるのか。(曽田晋太郎)

◆社長がおわびして「凍結」宣言

 「窓口混雑への意見を重く受け止めており、おわび申し上げる。削減はいったん凍結する」。JR東日本の喜勢陽一社長は8日の記者会見で、こう陳謝した。  JR東日本はコロナ禍の2021年5月、みどりの窓口の削減方針を発表。管内440駅にある窓口を「一定利用のある新幹線・特急停車駅のほか、利用の多い駅を中心にバランスを考慮した配置に見直す」として、25年までに140駅程度に絞る計画を示した。中長期的に年間25億円程度の人件費削減効果を見込んでいた。  窓口削減に合わせて、JR東日本はオペレーターが切符購入をサポートする「話せる指定席券売機」の導入を進め、先月1日時点で92駅に設置。チケットレス化を促進する目的で、ネットで切符購入できる「えきねっと」もリニューアルするなどした。また、実際に廃止された窓口では跡地に物販店や展示スペースができるなど活用が進んでいた。

みどりの窓口があった場所に期間限定で出店した高級卵販売店=1月、東京都大田区のJR大森駅で

 ただ誤算が生じた。コロナ禍が落ち着き、人の往来が活発化し、インバウンド(訪日客)の急回復も背景に、繁忙期にみどりの窓口に長蛇の列ができるなど混雑が問題化。

◆年度初めの定期購入、GWで窓口パンク

 交流サイト(SNS)では「本当に減らしすぎ。インバウンド戻ってより必要、高齢者はネットで予約なんてしづらいでしょ。ただでさえ、えきねっと使いづらいのに」「えきねっと、券売機共に中途半端な機能、複雑な料金体系でみどりの窓口削減は不評で当然。もう少し準備してからやれよ」など批判や不満の声が上がっていた。  JR東日本は13日、取材に「年度初めの通学をはじめとした定期券の購入や繁忙期におけるみどりの窓口の混雑で、利用者に不便をおかけした。そのような状況や昨今の利用状況を踏まえ窓口閉鎖計画を見直し、乗車スタイルの変革が進捗(しんちょく)するまでの間、現行体制を基本的に維持することにした」と説明。窓口は4月1日現在209駅にあり、既に閉鎖し設備が残る十数駅は、主に繁忙期に混雑状況を踏まえて営業することを検討するという。

◆インバウンド、高齢者…利用者目線が欠けていた

スマートフォンを扱う手(イメージ写真)

 鉄道ライターの杉山淳一氏は「ニーズが減っていないにもかかわらず、人手が足りない、経費がかかるとしてJR側の都合で窓口を減らすのは順序が逆。利用者目線が不足している」と指摘。自身も首都圏の駅で「話せる指定席券売機」を使った際、10人待ちでオペレーターと話すまで50分ほどかかった経験があるという。また「地方には交通系ICカード未対応の駅がたくさんある。現状ではチケットレス化も進まないのでは」といぶかしむ。  「利用者がどういう行動をするかや、使い勝手の検証が足りておらず、改善が必要」とデジタル戦略の甘さを指摘。繁忙期に移動・臨時窓口を設けるなど、当面の対策を提案した上で、こうくぎを刺す。「高齢者や中高生、ネットが不安だったり、機械が苦手だったりする人など、窓口の需要はある。公共交通を担う身としてそうした顧客の存在を忘れてはいけない」 

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。