昨年11月に屋久島沖で起きたオスプレイ墜落事故を受け、沖縄や首都圏など全国の基地爆音訴訟の原告団が10日、衆院第1議員会館で院内集会を開いた。オスプレイだけを対象にした集会の開催は初めて。詳しい原因が分からないまま飛行再開が進む現状に、怒りの声が相次いだ。基地の街の住民らは、日米両政府の姿勢をどう受け止めているのか。(岸本拓也、山田祐一郎)

オスプレイ配備撤回の要請書を防衛省職員(右)に渡す金子豊貴男さん=10日、東京・永田町の衆議院第一議員会館で

◆「原因は特定されたので…」同じ回答を繰り返す防衛省

 「飛行を再開するなら、なぜ全てを明らかにした調査報告書が出てからにしないのか」  「原因は特定されたので、安全対策を講じることで同種の事故を防止できると考えている」  各地の基地爆音訴訟の原告団でつくる連絡会議(金子豊貴男代表)が主催した10日の集会。具体的な事故原因を公表しないまま、オスプレイの飛行再開を追認した防衛省の姿勢をただす質問が出席者から相次いだが、防衛省の担当者は同じ回答を繰り返した。  屋久島沖の事故は昨年11月29日に発生。米空軍横田基地(東京都福生市など)所属のCV22オスプレイが墜落し、搭乗の8人全員が死亡した。米軍は1週間後、全世界でオスプレイの飛行を停止し、陸上自衛隊も保有機の飛行をやめた。

米軍横田基地に配備された米空軍の輸送機CV22オスプレイ(資料写真)

◆日本政府、詳細を明らかにせず

 米軍は「事故原因は特定の部品の不具合」で、設計や構造に問題はないとして、今年3月8日に停止措置を解除。日本側も「米側から詳細な情報提供を受けた」として追認した。在日米軍は同14日から普天間飛行場(沖縄県)で、陸上自衛隊は21日から木更津駐屯地(千葉県)で飛行を再開。日本政府は、関係自治体に「丁寧な説明をする」(木原稔防衛相)としていたが、原因の詳細を明らかにしなかった。  普天間飛行場のある宜野湾市で暮らす与那城千恵美さんは集会にオンラインで参加。「再開当日からいきなり、子どもたちの通う小学校や保育園の上を何度も低空飛行した。騒音で何度も授業が中断されている。原因が明らかにされない中での飛行は恐怖でしかない」と訴えた。

◆普天間では飛行停止で騒音が軽減

米軍横田基地(資料写真)

 基地周辺の騒音を測定している琉球大の渡嘉敷健准教授は、普天間飛行場そばの小学校でオスプレイの飛行停止によって騒音が10デシベル以上下がったと報告。「騒音の大きさが再認識された。少なくとも沖縄での飛行は行うべきではない」と指摘した。  墜落機が所属していた横田基地の騒音訴訟原告団長の奥村博さんは「日常的に住宅街の真横でホバリング訓練が行われ、騒音が100デシベルを超える日もある。横田で再開されたら、また同じことが起きる」と話した。市民団体「横田基地の撤去を求める西多摩の会」の高橋美枝子さんは、開発段階からのオスプレイの死者が65人になったとし、「これ以上飛んでほしくないのが私たちの願いだ」と訴えた。

◆岩国基地のイベントでデモ飛行

 基地機能の強化に反対する山口県岩国市の市民団体の久米慶典さんは、事故機が直前に経由した岩国基地の交流イベントで今月5日、オスプレイのデモ飛行が行われたことを問題視。「安全性が確認されていないのに。市民として大変憤っている」  集会では、不具合の起きた部品の詳細など事故原因の開示と、オスプレイの配備撤去を要請したが、防衛省の担当者は「米国の法律で事故調査報告書が公表されるまでは詳細を対外的に明らかにできない」「オスプレイは安全保障上重要で、撤去を求める考えはない」と述べるにとどめた。

◆「前例のない初めてのケース」と米報道

 昨年11月のオスプレイ墜落事故から5カ月余。詳細な原因は今も明らかになっていない。  今年2月、米NBCニュースが「ギアボックスによる事故の可能性が検討されている」と報じ、2022年7月以降、ギアボックス内で金属片が見つかった事例が少なくとも7件あったと指摘した。日本でも昨年8月、陸自オスプレイでギアボックス内の金属片を知らせるランプが点灯し、航空自衛隊静浜基地(静岡県焼津市)に予防着陸している。  一方、AP通信などは3月、米海兵隊幹部が今回の墜落事故の原因について「前例のない初めてのケース」とし、それまでの事故とは無関係であるとの見解を示したと報じた。

オスプレイ飛行再開に反対する人たちが全国から集まった院内集会=10日、東京・永田町で

◆米側からの情報提供も「前例のないレベル」

 木原防衛相も同月の記者会見で「これまで米側から事故の状況や原因、安全対策について、前例のないレベルで詳細な情報提供を受けた」と説明。だが「米側から、事故調査委員会の調査には訴訟や懲戒処分などへの対応に関することも含まれるため、報告書が公表されるまでは米国内法上の制限により、詳細について対外的に明らかにすることはできないとの説明も受けている」とし、具体的な原因は明かさなかった。  「こちら特報部」の取材に防衛省は「特定の部品の不具合が発生したことが事故の原因であると認識している」などと院内集会と同様に回答。在日米軍司令部広報部からは期限までに回答がなかった。

◆購入したのは日本だけ

 米外交・安全保障専門誌東京特派員の高橋浩祐氏は「詳細は事故調査報告書の公表を待つしかない」とした上で「今回、『前例のない』というのがキーワードとなっている。再開のために大枠だけ説明した形だが、危機感だけがあおられ、安全と主張することに、納得できない人は多いはずだ」と強調する。  一方、航空評論家の青木謙知氏は「すべて事故原因がつまびらかになったから運用が再開されたわけではなく、これ以上、海兵隊や空軍、海軍の運用を止めることができないと判断し、再開に踏み切ったのだろう」とみる。「特殊な機体だけに、他に代用できる機種がない。背に腹は代えられないということだ」

防衛省(資料写真)

 当初は多くの国がオスプレイ導入に関心を示したが、米国以外で実際に購入したのは日本だけ。米国でも昨年、空軍、海兵隊、海軍がいずれも議会に新規購入予算を要求しなかったため、生産終了も取り沙汰された。だが、今年5月には米軍事専門サイト「ディフェンス・ニューズ」が、米海兵隊幹部の話として、機体の寿命を延ばす研究をした上で、オスプレイの運用期間を2070年代まで延長することを検討していると報道した。

◆中国への抑止力、疑問の声も

 青木氏は「次世代機の開発計画が立てられておらず、そのような資金もない。寿命を延ばして今後も頼らざるを得ないという現実がある」と説明する。  中国を念頭に、日米が南西諸島の防衛力強化の柱と位置づけるオスプレイ。沖縄国際大の佐藤学教授(政治学)は「本当に中国に対する抑止力となるのか。導入から十数年でここまで事故が多発し、疲弊する機体をあと数十年も使い続けるのは現実的でない」と指摘する。  沖縄県議会は3月、飛行再開を受け、米軍オスプレイ配備撤回を求める決議を全会一致で可決。佐藤氏は「経済やエネルギーで日本が自立できていないのに、中国への強硬姿勢を強めるだけで良いのか。抑止力に頼らず、緊張緩和のための努力を政府、国民がもっとするべきだ」と強調する。

◆デスクメモ 

 10日の集会は、オスプレイ暫定配備先の木更津や基地建設が進む佐賀、飛来する立川や厚木の人たちも参加。一つの機種の事故がこれほど関心を集めることは少ない。被害が全国規模で広がっている証拠でもある。やはり住民や自治体より、日本政府が米国の矢面に立つべき問題だ。(本) 

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