アゼルバイジャンの首都バクーで開かれているCOP29では、途上国の気候変動対策を支援するための資金について、新たな目標額を決めることを目指していますが、支援の金額や分担方法をめぐって先進国側と新興国や途上国側との間で意見の隔たりが続いています。
こうした中、中国やインドなど新興国も参加してブラジルで開かれているG20の首脳会議では18日、首脳宣言が発表され、途上国の気候変動対策への支援について「特に途上国に対し、気候変動対策のための民間資金の流れを促進する」として、民間からも協力を得る必要性を強調しています。
また、途上国の再生可能エネルギーへの移行を支援するため「あらゆる資金源およびチャンネルからの投資を促進しその規模を拡大する必要性を認識する」としていて、支援の規模とその担い手を拡大すべきとする考えが示されています。
国連の気候変動枠組み条約のスティル事務局長は19日、「G20の首脳は、COP29の交渉担当者に明確なメッセージを送った」とする談話を発表し、交渉の加速に期待を示しました。
途上国の政府関係者「気候変動対策支援の資金 合意すべき」
COP29に出席している途上国の政府関係者からは、会議の時間切れが迫ってきているなかで、気候変動対策を支援する資金について合意すべきだという声が相次ぎました。
バングラデシュで気候変動対策を担当する政府関係者の男性は「先進国は気候変動対策の共同目標の設定に後ろ向きだ。ファイナンスCOPとも言われる今回の会議で資金の合意ができなければCOPは失敗だと考えている。アゼルバイジャンには議長国としてのリーダーシップを発揮してほしい」と話していました。
リビアの政府関係者の男性は「気候変動でアフリカの国々は多くの問題に直面している。いま、ここで先進国と途上国がお互いの話を聞いて議論することが何より重要だ。時間が限られてきているなかで世界の人たちのために行動を起こさないといけない」と話していました。
島しょ国 サイクロン被害など相次ぐ
島しょ国では、サイクロンや高潮で毎年深刻な被害が出ていますが、資金が不足していることから復興が進まない現状があります。
国連大学の報告書で、自然災害に対して最もぜい弱な国の一つとされたバヌアツでは、去年3月、2つの大きなサイクロンが立て続けに全土を襲いました。
アジア開発銀行などによりますと、32万余りの人口の6割以上が何らかの被害を受けたとされ、主要産業の農業や観光業への被害も甚大で、被害総額はGDP=国内総生産の40%余りにのぼるとされています。
首都ポートビラの中心部にある900人の児童が通う小学校では、校舎や職員が使う施設の屋根が吹き飛ばされるなどの被害が出ました。
オーストラリアやフランスなどの支援で復旧が行われましたが、3年生と2年生の一部は1年半以上がたった今でも、応急処置として校庭に設置されたテントの中で勉強することを余儀なくされています。
この学校のクローディア・ホケ校長代理によりますと、テントの中にはエアコンがなく子どもたちが集まると室温が上がるうえに、雨が降ると水が入り込むため、すべての机や椅子を別の場所に移す必要があるということです。
ホケ校長代理は「助けが必要です。子どもたちや先生からは修理してほしいと頼まれるが、お金がない。子どもたちが勉強できる環境ではなく、早く何とかしないといけない」と訴えていました。
また、海面上昇による影響も深刻です。
首都のある島からボートで1時間ほどのペレ島では海岸沿いの集落の墓地が海に沈んでしまい、残っている墓も潮位が高い時には海水につかるといいます。
集落の人たちは遺骨を掘り出して、内陸部に埋葬し直しましたが、一部の残された遺骨が波打ち際で見つかることもあるといいます。
この集落に住むアナ・マンセスさん(40)は「私たちはここに花を植えてお墓をきれいにしてきたのに、気候変動ですべてなくなってしまった。ご先祖さまに申し訳ない気持ちだ」と話していました。
バヌアツでは海沿いにあった集落が高潮などの被害が深刻で移住を余儀なくされたケースがあり、政府は、こうしたケースがこれからも増えるとしていて、移住計画を策定するだけで2021年から2030年までの10年間に68万ドル、およそ1億円が必要だとしています。
島しょ国で影響が深刻化
島しょ国をはじめ、社会基盤がぜい弱な途上国は気候変動による影響をより強く受けるとされています。
世界各国の科学者でつくる国連のIPCC=「気候変動に関する政府間パネル」が2021年に発表した最新の報告書では、1950年以降、大雨の降る回数や雨量が増加傾向にあることや、過去40年で強い台風やサイクロンの発生が増加していて、気候変動との関連を指摘しています。
さらに海面上昇による影響も深刻です。
WMO=世界気象機関は、ことし8月、海面上昇に関する報告書を発表し、1993年から2023年にかけての上昇は世界の平均で9.4センチだった一方で、太平洋の島しょ国のなかには15センチ以上の上昇を記録したところもあるとしています。
太平洋の島しょ国では、海面上昇が進み、住宅が浸水したり、畑に海水が入り込んだりするなどの被害が出ていて、人々の生活を脅かしています。
フィジーは移住が必要になる可能性のある集落が800あると推計しているほか、ツバルは去年、オーストラリアとの間で協定に署名し、年間最大でツバルの人口の2.5%にあたる280人の移民をオーストラリアが受け入れることで合意しています。
途上国から高まる支援求める声
気候変動による影響が深刻化するなか、途上国からは支援を求める声が高まっています。
途上国が気候変動対策を行うための資金は「気候資金」と呼ばれ、再生可能エネルギーの施設の建設など、温室効果ガスの排出を削減する「緩和策」の分野での支援と、将来に向けた備えとして被害の防止や軽減を進める「適応策」の分野での支援があげられます。
これについて各国は2009年、先進国全体で2020年までに、年間1000億ドルを拠出するという目標で合意していて、進捗状況をとりまとめているOECD=経済協力開発機構によりますと、おととし、2年遅れで目標額を達成したということです。
先進国は途上国に対する無償や有償の援助や民間の投資なども含めた支援額の総額を算出して、OECDに報告しています。
日本政府は民間もあわせて2016年からの5年間で年間1.3兆円の支援を行い、2021年からの5年間では最大700億ドル、日本円でおよそ10兆円を気候変動対策に関連する事業に拠出するとしています。
こうした日本の支援はバヌアツでも行われています。
JICA=国際協力機構は首都ポートビラの中心部から車で15分ほどのところで、災害に強い橋の建設を進めています。
従来の橋は大雨が降ると川の水かさが増して通れなくなることもあったため、3メートルかさ上げし、曲がっていた川の流れを緩やかにする計画で、総工費は22億円あまりとされています。
さらに、自然災害の予測や早期の備えを呼びかけるための広域防災システムの整備も行っています。
バヌアツ政府の気象・地象災害局には、日本から供与された気象衛星「ひまわり」からの映像を受信するアンテナや、情報を分析するためのスクリーンやパソコンが並び、職員が監視に当たっていました。
このほかの太平洋の島しょ国ではさまざまな事業が行われていて、ツバルでは気候変動対策のための国連の基金「緑の気候基金」などが4000万ドル、日本円で60億円余りを出資して、大規模な海岸線の埋め立て工事も進められています。
太平洋の島しょ国では、こうした支援が進む一方で、異常気象による被害は深刻化し、将来に向けた備えも欠かせないため、10倍の気候資金が必要だとして、大幅な目標額の引き上げを求めているほか、支援を受ける際の手続きの簡素化や、資金の中に民間の投資や政府のローンなどは含めないような仕組みを求めています。
一方の先進国は、財源が限られるなかで、どこまで支援を拡大できるか、また、資金が効果的に使われているか、透明性を確保しながら途上国のニーズにどう応じていくか、課題となっています。
バヌアツ政府高官「気候正義の問題」
バヌアツ政府の前の気候変動担当相で気候変動特使を務めるラルフ・レゲンバヌ氏は「サイクロンの被害で、今も学校は被害を受けたまま、人々は家を建て直している最中で、復興の途上にある。そして今、次のサイクロンの季節に突入しようとしている」として、復興が進まないなか、新たな災害の脅威にさらされていると話しました。
また「気候変動の影響で、サイクロンの強度や頻度が増し大雨の発生頻度が高まっている」として、インフラを建設する際に、気象災害にも耐えうるものにするために以前よりも多額の資金が必要になっているとの認識を示しました。
その上で「バヌアツの温室効果ガスの排出量はごくわずかで今、私たちが直面している問題の責任はほとんどない。『気候正義』の問題だ。日本やアメリカなどは気候変動を引き起こしている化石燃料業界に補助金をつぎ込むのをやめて、私たちがパリ協定で合意したよいことに振り向けてほしい」と訴えました。
また、アメリカで気候変動対策に後ろ向きとされるトランプ次期大統領がおよそ2か月後に就任することを受けて「国連の気候変動枠組条約や、気候変動対策に打撃となるだろう。米国が撤退すれば、間違いなく他の国々や多国間の協議・システム全体に影響を与えるだろう」と述べ、気候変動対策にブレーキがかかり、資金援助においても、影響が出ることへの懸念を示しました。
COP29参加 若者団体メンバー 会場と札幌の小学校結び特別授業
札幌市の小学校で19日、気候変動対策を話し合う国連の会議、COP29が開かれているアゼルバイジャンとオンラインで結んだ特別授業が開かれ、子どもたちが現地の様子や気候変動対策などを学びました。
この特別授業は環境教育に取り組む日本の若者団体「SWiTCH」が行ったもので、札幌市東区にある北光小学校の6年生のクラスと、アゼルバイジャンの首都バクーで開かれているCOP29の会場がオンラインで結ばれました。
児童たちは代表の佐座槙苗さんから会場で出会った各国の若者のうち、メキシコから訪れた大学生が、洪水で家が浸水するなどの被害を受けたという話を聞きました。
そして、参加国が取り組む気候変動対策を紹介するパビリオンや自然保護など3つの取り組むべき課題から最も重要だと考える課題を選んで投票するスペースなど、COP29の会場内の様子を映像で見ながら、気候変動問題について、ふだんから関心を持って行動に移してほしいという佐座さんの呼びかけに耳を傾けていました。
特別授業に参加した児童は、「これまで気候変動問題をひと事だと思っていましたが、より身近に感じられました。自分でもできることをやりたいと思いました」と話していました。
また、別の児童は、「国を超えて同じ課題を話し合える環境がすごいと思いました。料理や手を洗うときに節水を心がけるなど、自分にもできることがあると感じました」と話していました。
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