米大統領選で共和党のトランプ前大統領が当選を確実にした。サプライズだった8年前の勝利とは異なり、今回は想定しえた結果である。きしむ世界をこれ以上、不安定な状態に陥れないよう強く求めたい。日本も国際秩序の安定に向けて、さらに努力しなければならない。
4年前の選挙でトランプ氏は敗北した。現職で再選できなかった元職の復帰は、19世紀末のグローバー・クリーブランド以来、132年ぶり2人目となる。
■深い分断改めて鮮明に
トランプ氏は支持者を前に「米国を再び偉大な国にしよう」と勝利宣言した。民主党のハリス副大統領はインフレや移民といった米国が直面する課題で、有権者が納得できる処方箋を十分に示せなかった。トランプ氏の勝利は、その不満と変化を求める民意をすくい取った結果だろう。
大統領の在職中に2回の弾劾訴追を受け、退任後も複数の罪状で刑事訴追や有罪評決を受けた人物が、なぜこれほどの支持を得ているのか。底流に深刻な分断があるのは言うまでもない。自分の好みの情報だけに取り囲まれ、異論を排除する。デジタル空間を中心にこんな環境が浸透し、トランプ氏の一方的な主張がまかり通る土壌となっている。
正確な情報や言論の自由が脅かされている現状は、その基盤によって立つ民主主義にとって危機的な状況だ。前回の大統領選の結果を否定し、連邦議会占拠事件のような暴動を招く言動をいとわない人物の復権は異常事態と言わざるを得ない。自由や法の支配を尊重してきた米国の民主主義は歴史的な転換点を迎えている。
大衆迎合的なトランプ氏のスタイルが米国で一定程度、許容されているのも危険だ。各国でポピュリズムが勢いをさらに増しかねない。そんな警鐘と受け取るべきだ。6月の欧州議会選では、欧州連合(EU)に批判的な極右政党が躍進した。日本も例外ではない。衆院選で消費税減税など有権者に聞こえの良い政策を訴えた小政党が議席を得た。
バイデン政権下では、激しい党派対立のあおりで連邦政府予算の協議が難航し、政府機関が一部閉鎖する瀬戸際に立つ場面がたびたびあった。今回の連邦議会選は上院で共和党が多数派を奪還する見通しとなり、下院は激戦となっている。その結果によらず、重要政策では党派の壁を超えた合意形成を探ってほしい。
国内の問題に限らない。米国は冷戦後、唯一の超大国として世界に君臨してきた。中国やロシアといった権威主義国家の専横で国際秩序は揺らぎ、その役割の重みはさらに増している。トランプ氏はこの点を自覚した行動をとってもらいたい。
「米国第一」を掲げるトランプ氏はウクライナ支援に否定的だ。ロシアとの戦争の行方を大きく左右するだけに、その継続を巡る判断は慎重を期すべきだ。最大の援助国である米国が支援を停止すれば、ロシアの侵略を結果的に助長する。そのような展開は、台湾の武力統一を排除していない中国の習近平指導部を誤った方向に導きかねない。
トランプ氏はウクライナ戦争を「1日で終わらせる」とも公言している。収束に向けた青写真をなるべく早く示す責務があろう。
中東危機はこれ以上の悪化を食い止めなければならない。バイデン現政権はもちろん、トランプ氏はイスラエルに自制を強く働きかけるべきだ。
■日本は国際協調維持を
日本は大統領が誰になろうとも、米国との同盟を強化するほかない。トランプ氏は在日米軍の駐留経費について増額を求める公算が大きい。日本は防衛力の強化を進め、自助努力に取り組んでいる点を強調するのが得策だ。
欧州やオーストラリアといった同志国と進めてきた国際協調は強めるべきだ。米国の「内向き志向」は簡単には変わらないとみたほうがよい。グローバルサウスと呼ばれる新興国への関与も薄まる可能性がある。
国際秩序を下支えする役回りを米国に期待しにくくなったいま、西側諸国は世界の安定にさらに尽力する必要がある。それは民主主義の退潮に歯止めをかけることにもつながる。
自由貿易についても同じことがいえる。トランプ政権時代に始まった保護主義的な政策はこれからも続くだろう。通商国家として繁栄を享受してきた日本は自由貿易の旗を降ろさず、その維持へ指導力を発揮してほしい。
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