日本政府は6日、米大統領選で共和党のトランプ前大統領が当選を確実にしたのを踏まえ、石破茂首相との関係構築を急ぐ。電話で祝意を伝え、早期の訪米を調整する。アジアの厳しい安全保障環境に日米で対応する重要性を訴え、米国の関与継続を求める。
首相は6日夜、首相官邸で記者団に「トランプ氏と連携を密に日米同盟、日米関係を更なる高みに引き上げたい」と強調した。電話協議や会談の見通しを問われ「接点を早急に持つべく努力したい」と述べた。
官邸や外務省、防衛省は6日午後、トランプ氏が複数の激戦州で勝利したとの報道を受け動きが慌ただしくなった。
当初は民主党のハリス副大統領との接戦が報じられ、決着が付くまで数日かかるのではないかとの見立てがあった。「こんなに強かったのか」との声も漏れた。
首相は2025年1月の就任式を待たず、次期大統領と接触する意欲を示してきた。今月中旬にペルーやブラジルを訪問する機会を捉え、帰路に米国に立ち寄って面会実現をめざす。
政府高官を派遣して調整にあたらせる。今回実現が難しくても早期の訪米を探る。
日本政府は前政権時の閣僚経験者やスタッフ、シンクタンクなどとの人脈を強固にし、トランプ氏が返り咲くシナリオに備えてきた。日米同盟の不均衡さを指摘され、混乱が生じた1期目の苦い経験があるからだ。
外務省幹部は「トランプ氏と前回うまくいったのは安倍晋三元首相の個人的な手腕が大きかった。日米関係をどう管理していくか積み重ねが重要になる」と話した。
日本政府が最も懸念するのはバイデン米大統領との間で整備を進めてきたアジアの安保体制が揺らぐ事態だ。
日米は自衛隊と米軍で、作戦立案や現場の動きを連動させる指揮統制の連携強化を進めている。米国が中東やウクライナ対応に力をそがれる中、日本が防衛力を高めたうえで米国のアジア関与を保障してもらう狙いがある。
トランプ氏は17〜21年の大統領在任時、米国だけが対日防衛義務を負う日米安保条約が「不公平」だと疑問を投げかけた。日本は自国防衛を強化すべきだと訴え、防衛費の増額や在日米軍の駐留経費の大幅な負担増も求めた経緯がある。
駐留経費の日本負担に関しては今の協定が27年3月を期限としており、通常であれば交渉は25年後半以降になるものの、前倒し交渉に備えなければいけない。日本は防衛費を23年度以降大幅に増やしたが、さらに増額を求められる可能性も排除できない。
日米で推進するミサイルなどの防衛装備の共同開発も、米国の国内産業保護優先を理由に遅れたり、頓挫したりしかねない。
中国の軍事力が米国に次ぐ規模になり、東アジアでは数年内に中国優位に逆転するとの分析がある。米軍は27年までに中国が台湾を武力統一するリスクも示している。北朝鮮がウクライナ侵略を続けるロシアに兵を派遣し、アジアの複合リスクは高まる一方だ。
バイデン政権下でのアジアの安保は日米同盟を軸に韓国やオーストラリア、フィリピンを巻き込んだ枠組みへと協力を広げてきた。トランプ氏は多国間よりも2国間の協力を重視し、既存の国際枠組みにも否定的な態度をとってきた。
日本の働きかけもあり北大西洋条約機構(NATO)もアジア重視を深めているが、トランプ氏はNATO不要論を唱えたこともある。
防衛省幹部は6日、「これからアジア地域の情勢が悪くなっていくことは間違いない。日米の2国間関係はトランプ政権でも大きく変わらないと思うが、同盟・有志国の枠組みになると読めない」と語った。
北朝鮮に関してはトランプ氏が18、19年に米朝首脳会談をしたことが拉致問題の停滞を招いたと指摘する声もある。
北朝鮮が日本と交渉するのは米国との関係が悪化したときという見立てがあり、米朝が直接トップ対話できれば日本の存在価値が薄まるためだ。
ウクライナ侵略への対応も見通しづらくなる。日米欧は主要7カ国(G7)の枠組みを使って支援を続けてきた。トランプ氏は支援停止を掲げたことがある。日本はウクライナ対応は民主主義の根幹に関わる問題と捉えており、米国を引き留める策を考えていく。
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