トランプトレードで米長期金利上昇?
接戦が続くアメリカ大統領選挙。
投開票日の11月5日までわずかです。
金融市場では共和党のトランプ前大統領がもし返り咲いたら?という予測のもと、金融商品を売り買いする、いわゆる「トランプトレード」が動き出しているとも言われています。
トランプ氏は中国に対する関税引き上げや減税などの政策を掲げています。
これがアメリカのインフレを再燃させ、財政赤字の拡大をもたらすという見方につながり、債券市場ではアメリカ国債の長期金利が上昇傾向にあります。
10月29日におよそ4か月ぶりに4.33%まで上昇しました。
また、金利上昇でドルが買われ、円安の傾向も続いています。
トランプ氏が暗号資産の支援を表明していることでビットコインが買われる動きも出ています。
アジアの金融市場でも話題に
東南アジアでもトランプトレードが動き出しています。
ドル高にともない、タイの通貨バーツや、マレーシアの通貨リンギットなどの通貨安が目立つようになってきています。
また、株式のトレーダーたちが視線を注いでいるのはインドネシアやマレーシアが主な原産地のパーム油。
米中対立が激化して、中国がアメリカ産の大豆に対抗関税をかければ、パーム油関連の企業が中国向けの事業を拡大できるのではないかと「捕らぬたぬきの皮算用」を始めているのです。
実際、こうしたことを説明するアナリストのレポートも出回っています。
関税好きの前大統領
しかし、“もしトラ”の議論で最大の焦点は、トランプ氏が掲げる関税の引き上げです。
関税を意味するtariff(タリフ)を引用してみずからをtariff man(タリフマン)と称するトランプ氏。
中国製品に対して60%の関税をかけると報じられたほか、中国以外にも日本を含む外国から輸入される製品に原則10%から20%の関税をかける方針を打ち出しています。
特に中国に高関税を課すことで中国から安価な製品が大量に東南アジアに押し寄せるのではないかとの警戒感が高まっているのです。
「タイのゾウ柄パンツ」に逆風?
私が駐在するタイで話題になっているのが、観光地でよく見かけるこちらのゾウ柄パンツです。
ゾウ柄パンツはタイで神聖な動物とされるゾウや亜熱帯の植物の柄が描かれた色とりどりのズボンのことです。
バンコクでは寺院などの観光地やマーケットの露天で1着400円程度で手に入れられます。
薄手のコットン生地は通気性がよく1年中暑いタイでも快適に過ごせるとあって多くの観光客に親しまれています。
ところが、ことしに入ってタイの地元の縫製業者から、安価な中国製が大量に流入して経営が圧迫されていると反発の声が高まっています。
今年3月には関税を支払わずに中国から密輸されたゾウ柄パンツ3万枚がタイ当局に押収されるという事件まで起きています。
価格の安い中国製品の大量輸出、いわゆる「デフレ輸出」の象徴となっているわけです。
フライドチキンからEVまで
最近バンコクでは安さを売りとした中国の飲食チェーンも目立つようになってきました。
例えば7月にはフライドチキン1ピース15バーツ(およそ70円)で販売する中国のチェーン店が新規出店しました。
1杯45バーツ(およそ200円)の中国のコーヒーチェーンも登場。
タイの大手チェーンより3割安い価格設定で店舗を増やしています。
インドネシアでは中国からの輸入が急増したニットやカーペットなどの繊維製品を対象に今年8月にセーフガード(緊急輸入制限措置)を発動。
過剰生産、デフレ輸出はEV=電気自動車や太陽光パネルなど、さまざまなものに広がっていて、東南アジアに入り込んできています。
米中対立で漁夫の利?
一方で中国製品への関税の引き上げは追い風になるとの見方もあります。
アメリカと中国との間の対立がさらに深まれば、どちらとも友好な関係を維持するASEAN各国では貿易量や投資が増えるのではないかという期待です。
恩恵を受けそうなのがマレーシアです。
1970年代から欧米の半導体メーカーが労働力を求めて進出して“東洋のシリコンバレー”とも呼ばれてきたマレーシアは、ここ数年、半導体向けの投資が活発です。
2024年8月にはドイツのパワー半導体大手インフィニオンが新工場をオープンさせ、アメリカのインテルも総額1兆円を投資してAI向け半導体の工場の新設を進めています。
マレーシアはもともと欧米、中国と等距離外交を進めてきた国。
トランプ氏が対中強硬策をとり、対立が激化しても、欧米にも中国にもどちらにも売り先があるという点が企業にとって安心感につながっているとの見方もあります。
4年に1度のアメリカ大統領選挙。
アメリカの政策が世界に大きな影響力を及ぼすのは理解しますが、極端に貿易を制限するような高関税政策がとられるとすれば、それによって多くの国が振り回されることになりそうで困ったものです。
ゾウ柄パンツをつくるタイの縫製業者も11月5日の大統領選挙を心配そうに見守っているはずです。
注目予定
来週はアメリカのFRBが金融政策を決める会合FOMCを開く予定で、今後の利下げのペースについてどのような方針を示すのかが焦点です。
東京証券取引所は70年ぶりに取り引き時間を変更し、来週5日からは午前9時から午後3時半までの取り引きとなります。
(11月5日「おはBiz」で放送予定)
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