自民党の新総裁に選ばれた石破茂元幹事長は10月1日に首相に就任して間もなく首脳外交に臨む。秋は「外交の季節」と呼ばれ、国際会議が続く。世界の首脳と向かい合い、厳しさを増す東アジアの安全保障環境や米中対立への対応など難しい課題に取り組むことになる。
石破氏は総裁選期間中、集団安全保障の体制をとる北大西洋条約機構(NATO)のような仕組みをアジアでも創設すべきだと訴えてきた。防衛力のさらなる強化や米国の核使用時に同盟国も意思決定に関与する「核共有」の検討も提起してきた。防衛庁長官、防衛相を務めた経験がある。
新首相が直面する外交課題はまず対中国だ。日中は2023年11月の岸田文雄首相と習近平(シー・ジンピン)国家主席との首脳会談で共通の利益を追求する「戦略的互恵関係」の構築を進めると確認した。
日中関係の懸案の一つだった、東京電力福島第1原子力発電所の処理水の海洋放出を受けた中国の日本産水産物の輸入停止の問題は解決に向けて一歩踏み出したばかりだ。日中両政府は20日、段階的な輸入再開へ調整を始めることで合意した。
日中合意で輸入再開の時期は明示しなかった。中国側は処理水を「核汚染水」と呼び続けている。早期の輸入再開を実現するには中国側とのハイレベルの対話が欠かせない。
首相が退陣を表明した8月中旬以降、中国による軍事的な挑発行動も続いている。8月下旬に中国軍機が初めて日本の領空を侵犯し、9月18日には空母「遼寧」が日本の接続水域に初めて入った。中ロの艦艇が共同で日本周辺を航行する動きもあった。
10月9〜11日にはラオスで東南アジア諸国連合(ASEAN)の関連首脳会議があり、日中ともに首相の参加を模索している。11月の15〜16日にペルーで開催するアジア太平洋経済協力会議(APEC)、18〜19日のブラジルでの20カ国・地域(G20)の各首脳会議には習氏が出席する可能性がある。
日本側は11月のAPECやG20にあわせて日中首脳会談を開催し、新首相と習氏の初対面の実現をめざす。中国は日本の新政権の対中政策を踏まえて対応するとみられる。
2つ目の課題は同盟国の米国との関係強化だ。11月5日には米大統領選が控えており、民主党のハリス副大統領、共和党のトランプ前大統領が争っている。
岸田政権では防衛力の抜本的な強化を進め、米国との信頼関係を深めた。自衛隊と米軍が東アジアで有事に備える目的で、部隊の指揮統制の連携拡大を進めることとなった。新政権にもアジアの安保問題への関与を働きかけていく必要がある。
石破氏は総裁選の期間中、米軍が日本で活動する際の法的な扱いを定めた「日米地位協定」の見直しに着手すると話した。国内の米軍基地の管理に日本も関与するといった内容で、米側に警戒感が高まる可能性もある。
石破氏は歴代首相のように早期の米国訪問をめざす。米国だけでなく韓国やオーストラリア、欧州、東南アジアといった価値観を共有できる国々と関係を強固にする外交が求められる。
ロシアによるウクライナ侵略や中東紛争も続いている。東アジアでは台湾有事が数年内に起こるとの見方が米国などにある。海外に滞在する邦人を退避させる手段を早期に構築しなければいけない。
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