イスラエル軍の空爆を受けたベイルート南郊(24日)=ロイター

イスラエル軍がレバノンに大規模な空爆を加え、同国の親イラン民兵組織ヒズボラへの攻撃を強めた。500人以上が死亡し、民間人も巻き添えになったと伝えられた。中東の混乱拡大を懸念する。

ヒズボラは空爆で幹部を相次ぎ失った。これに先立ち通信機器の一斉爆発でかく乱され、既にイスラエルへの報復に動いている。応酬の激化は、パレスチナ自治区ガザの戦闘で流動化した中東をいっそう不安定にする。

ヒズボラは昨年10月からイスラエルと交戦するガザのイスラム組織ハマスに呼応し、イスラエル北部に越境攻撃を重ねてきた。同国の住民6万人が避難を余儀なくされている。ネタニヤフ政権は最近、北部住民の帰還をガザの戦闘の目標に追加し、ヒズボラ攻撃に軸足を移すとしていた。

ガザでは開戦から1年が近づくが、人質の全員奪還は達成できていない。手詰まりのネタニヤフ首相が主戦場をレバノンに転じ、求心力の維持と政治延命を狙っているとの観測は尽きない。

6万人に避難生活を強いるヒズボラの越境攻撃は非難されて当然だ。どんな政府であれ、安全回復と住民の帰還を追求するだろう。しかし軍事力に頼るだけでは危険を増幅しかねない。

ヒズボラはハマスより強大な軍備を持ち、地下に隠しているとされる。イスラエルが地上部隊を投入するなら泥沼化の恐れが強い。執拗な空爆は民間人の犠牲を膨らませる。国際社会は速やかな鎮静化を迫らなければならない。

イスラエルに最大の影響力を持つバイデン米政権が、ネタニヤフ氏に自制させる有効な手を打てずにいるのは残念だ。11月に控える米大統領選で、ユダヤ系有権者を気にする様子が透ける。

ヒズボラはガザの戦闘が続く限り攻撃をやめないとしている。後ろ盾のイランが参戦すれば、予測不能な地域紛争に至るのは不可避だ。戦線の拡大でなく、まずガザの戦闘終結を全当事者が真剣に探るときだ。

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