国際放送問題で謝罪するNHKの稲葉延雄会長(右)と井上樹彦副会長(10日、東京都渋谷区)

NHKはラジオ国際放送などの中国語ニュース番組で外部スタッフが不適切な発言をした問題を受け、調査報告書を公表した。NHKは放送法に抵触する重大な問題を起こしたことを猛省し、再発防止策を速やかに実行すべきだ。

8月19日の番組で中国籍のスタッフが原稿から逸脱し、約20秒間にわたり沖縄県の尖閣諸島が「古来から中国の領土」などと発言した。NHKの稲葉延雄会長は10日の記者会見で「放送の乗っ取りともいえる事態」と述べ、担当理事の辞任などを公表した。

調査報告書では外部スタッフが以前からNHKに対して不満を漏らしていたことや、放送設備が緊急時に音声を止める機能を備えていたことなどを説明した。発言内容は容認できず、問題を回避する機会が何度もあったにもかかわらず生かせなかったのは残念だ。

正確な訂正や対外的な説明に時間がかかるなど、事後の対応にも問題があった。説明資料に不備があり、外部から指摘を受けて訂正する失態を演じた。

背景にあるのは調査報告書で自ら指摘している危機意識の乏しさだろう。国際情勢が緊迫するなか、放送が情報戦で悪用されるといった事態を想定すべきだった。国際放送に携わるスタッフに「国際問題に対する公的見解を正しく伝える」といったルールを周知して文書に署名させるなど、検討中の対策を急ぐ必要がある。

国際放送にまつわる業務が野放図に拡大したことも問題だ。調査報告書によると、業務が増えたにもかかわらず担当する職員数は10年にわたってほぼ変わらず、外部委託への依存を高めた。時代の変化に合わせて重要度が低下した業務をやめるなどして、十分な管理が行き届くようにすべきだ。

NHKはたびたび時の政権との距離感が問題になってきた経緯がある。公正中立を保ち公共放送としての使命を果たすためにも、自らを厳しく律して過度な介入を招かないことが重要なのは言うまでもない。

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