中国の北京で始まった「北京モーターショー」には、世界各国の自動車メーカーや部品メーカーなどおよそ1500社が参加し、最新のモデルや技術を披露しています。

中国では、EVやプラグインハイブリッド車などの「新エネルギー車」の販売台数が新車販売全体の3分の1を占めていて、各社ともこの分野の展示に力を入れています。

このうちEVに参入したスマートフォンメーカーの「シャオミ」は3月、販売を始めたEVを披露し、受注が1か月足らずで7万5000台を超えたとアピールし、来場者の関心を集めていました。

また、トヨタ自動車は最新のEVを発表するとともに中国のIT大手の「テンセント」と提携し、EVなどに搭載するソフトの開発を進める方針を示しました。

一方、中国では、都市部を中心にEVの普及が急速に進んだことや、航続距離への不安などもあってEVの販売の伸びが鈍化し始めていて、ガソリンエンジンを搭載し、より長い距離を走ることができるプラグインハイブリッド車の人気が高まっています。

こうした中、日産自動車が2種類のプラグインハイブリッドのコンセプトカーを披露したほか、中国大手の「吉利自動車グループ」が充電や給油なしに最大で2000キロを走ることができるとするモデルを発表するなど、最新のプラグインハイブリッド車の発表が相次ぎました。

中国 EVの販売台数の伸びが鈍化も

急速なEVシフトが進んできた中国では、このところ、EVの販売台数の伸びが鈍化してきています。

中国でEVの販売が一気に伸びたのは2021年でした。
中国の自動車メーカーなどでつくる「自動車工業協会」によりますと、この年の販売台数は291万6000台に上り、前年・2020年の2.6倍に拡大しました。
政府が、補助金や環境規制で普及を後押ししたことが急拡大の要因となりました。

翌年の2022年もEVの販売台数は、2021年から81.6%増えて536万5000台と、引き続き大幅に拡大しました。

しかし、2023年は、前の年と比べて24.6%の伸びにとどまり、2024年1月から3月までの3か月間では、前の年の同じ時期と比べた伸び率が13.3%に縮小しています。

背景には、2022年の年末でEVなどの新エネルギー車を購入する際の補助金が廃止されたことや、都市部でEVの普及が急速に進んだことに加え、航続距離への不安が根強いことなどがあるという指摘が出ています。

一方、プラグインハイブリッド車の販売はEVと同様に2021年に2.4倍に拡大したあと、2022年もさらに2.5倍になりました。

購入時の補助金が終わったあとの去年も前の年に比べて84.7%増え、ことし1月から3月の3か月間も81.2%の増加と、高い伸びが続いています。

なぜプラグインハイブリッド車が人気に?

中国でプラグインハイブリッド車の人気が高まっている背景には、EV=電気自動車と比べた「航続距離」と「価格」があります。

EVは、定期的に長時間の充電をしなければ、長距離移動ができないほか、寒い時期になると電池の性能が下がり、航続距離が短くなってしまうのではないかといった不安も根強くあります。

これに対し、プラグインハイブリッド車は、遠出をするときにはガソリンを燃料にして走ることができるため、航続距離への不安を解消できます。

また、プラグインハイブリッド車はEVと比べて、電池の容量が小さいことから、車体の価格をEVよりも安くすることができます。

つまり、プラグインハイブリッド車は、EVの課題となっている航続距離の短さと価格の高さの両方を解決できることから、消費者からの評価が高まっているとみられます。

中国政府は、EVとプラグインハイブリッド車、それに水素を燃料とする燃料電池車を「新エネルギー車」と位置づけ、これまで補助金や税制面での優遇などの対象としてきました。

これに加え、BYDが去年、プラグインハイブリッド車をガソリン車とほぼ同じ価格にまで値下げし、ことし2月には、ガソリン車よりも安い価格を打ち出したことで、値下げ競争が激化しています。

こうしたことが、プラグインハイブリッド車人気に拍車をかける形となっています。

プラグインハイブリッド車の開発を強化する動きも

中国でEV=電気自動車の伸びが鈍化する一方、拡大が続くプラグインハイブリッド車の開発を強化する動きがメーカーの間で広がっています。

大手自動車メーカーの「吉利自動車グループ」は去年、傘下のブランドで複数のプラグインハイブリッド車を発売し、今回のモーターショーでは、充電や給油なしに最大で2000キロを走ることができるとするモデルを発表しました。

このメーカーは、EVシフトが進む中でも、2017年に浙江省寧波にハイブリッドエンジンなどの技術開発を行う専用の施設を設立しました。

この施設では、熱や圧力への耐性やエンジンの音量、それに加速性能の試験など、30余りに及ぶ実験を行っています。

ここ数年、この分野の研究開発投資を大幅に拡大し、エンジンの燃焼効率を世界最高水準まで高めるなど、性能の向上を図っています。

EV専業メーカーが持っていないエンジン製造のノウハウをいかすことができることから、メーカーでは、プラグインハイブリッド車を主力製品と位置づけています。

吉利自動車グループの王瑞平上級副社長は「EVがガソリン車に取って代わることはワンステップで完成するものではない。ハイブリッドには独自の優位性と適応性があるため、長期的に主力製品であり続けると考えている」と話しています。

日本のメーカー 「新エネルギー車」で出遅れ指摘も

日本の自動車メーカーは、中国で市場が拡大しているEV=電気自動車やプラグインハイブリッド車などの「新エネルギー車」で出遅れが指摘されています。

日本メーカーが強みを持つハイブリッド車は、中国政府がこれまで補助金や税制優遇の対象としてきた「新エネルギー車」ではないことから、苦戦を強いられてきました。

トヨタ自動車やホンダ、それに日産自動車など、日本メーカーは、中国メーカーとの合弁会社で「新エネルギー車」を展開していますが、存在感を示すことができていません。

今回のモーターショーでは、ホンダが新たに展開するEVブランドを発表したのをはじめ、トヨタ自動車もEVの新たなモデルを披露したほか、日産自動車はEVとプラグインハイブリッド車のコンセプトカーを発表し、それぞれ新エネルギー車の開発加速をアピールしました。

【専門家Q&A】EVシフト先行きや日本メーカー戦略は

中国で鈍化し始めたEVシフトの先行きや日本メーカーの戦略などについて、みずほ銀行の湯進主任研究員に聞きました。

Q.中国でのEVの伸びの鈍化、要因をどう見る?
A.車両のコストダウン、バッテリー性能の向上、充電インフラの整備がEVの普及に欠かせない。
しかし、ボリュームゾーンの大衆車マーケットでは、コストパフォーマンスと利便性でEVがガソリン車と競争するのは依然、難しい。
特に寒い環境には、バッテリーの充電時間も長く、バッテリーの容量も大幅に低下し、走行距離も次第に短くなる。

Q.中国のEVシフトは限界を迎えたのか?
A.足もと中国のEV市場は確かに成長鈍化となっているが、中長期的には成長トレンドに変化はないと見ている。
今後、バッテリーの性能、車両コスト、乗車の利便性が改善され、中国の新車販売に占める電動化比率は、2026年ごろに50%を超えるのではないかと見込まれる。

Q.EVが減速する一方で、プラグインハイブリッド車が急速に拡大しているがその要因は?
A.プラグインハイブリッド車はエンジンを使ってバッテリーの走行距離を補充する機能があり、特に寒い地域、環境でも長い航続距離を実現できる。
ガソリン車にコストで対抗するのは簡単ではないというのがこれまでの常識だったが、中国のBYDがことし2月に価格破壊を起こし、ガソリン車のボリュームゾーンを一気に刈り取ろうとしている。
BYDの躍進により中国の新エネルギー車市場のプラグインハイブリッド車が占める割合がことし初めて40%を超え、普及が進んでいる。

Q.過剰生産されたEVの輸出に対する懸念が出ているが、中国メーカーや世界のEV市場にどう影響する?
A.アメリカのインフレ抑制法、特に最近聞こえてくる中国車の生産過剰、さらにEU=ヨーロッパ連合の中国車に対する調査など、欧米ビジネスがますます難しくなる中で、中国企業は日本車の牙城と言われる東南アジアに攻勢をかけている。
またEUでは、中国の電池メーカー、素材メーカーが進出している。
今後、中国車は輸出ビジネスから現地で生産し販売する地産地消ビジネスに切り替えるのではないかとみている。

Q.中国だけでなくアメリカなどでもEVシフトに変化が起きているが、今後、世界のEVシフトの見通しは?
A.確かに欧米市場ではEV減速のムードが漂っている。
需要サイドから見ると、消費者が求めるEVのコストダウンや利便性がまだ実現できていない面があり、自動車メーカーは、EVよりガソリン車事業のほうが収益が高いとみているので、欧米各国ではEVシフトが予想どおり進行できていない。
ただ、足もとのEV減速はあくまで一時的なものではないかと見ていて、中長期的にはEVシフトのトレンドに変化はないと考えている。

Q.日本メーカーはどう対応すべき?
A.中国市場では電動車両の台頭が日本の競争力を一気に脅かした。
今後、ガソリン車市場が縮小する中で、日本の自動車メーカーは、コストダウンと中国の拠点からの輸出に取り組むとともに、電動車の開発も加速する必要がある。
特に中国企業、中国のサプライチェーンを活用して、コネクテッドカー、あるいは自動運転機能を備えるスマートカーの開発に力を入れるべきだ。
中国市場で戦うことができれば、今後、グローバル展開で日本車にとって1つの優位性につながると思っている。

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