タイはフィリピンにコメの輸出攻勢をかけている=ロイター

主要コメ輸出国のタイとベトナムがフィリピンでの市場シェア拡大を目指して争っている。フィリピン政府は国内のコメ不作を背景に、輸入拡大と関税引き下げを行い、国内価格上昇を抑えようとしている。

米農務省(USDA)によれば、フィリピンは世界一のコメ輸入国で、2023年にはコメを320万トン輸入し、今年の輸入量は410万トンにも達する見通しだ。

今年と去年の輸入量はより平均的な年200万から250万トンの水準を大きく上回っている。エルニーニョ現象に伴う天候不順でコメ生産量が落ち込み、米価上昇とインフレを招いている。フィリピン政府は国内消費者への影響を軽減するため、6月にコメの輸入関税を35%から15%へと引き下げた。

関税引き下げを受け、世界2位と3位のコメ輸出国であるタイとベトナムがフィリピン政府に接近し、同国の輸入需要を商機に結びつけようとしている。

ベトナムのレ・ミン・ホアン農業農村開発相とフィリピンのフランシスコ・ティウ・ラウレル農業相は7月18日、ハノイで会談した。両大臣はベトナムがコメの品質を向上させ、フィリピンの需要増に応える生産増強を図ることで合意した。フィリピンは長年ベトナム産のコメの主要輸入国となっている。

USDAによれば、ベトナムは今年前半320万トンのコメをフィリピンに輸出している(前年同期比11%増)。ベトナムは例年フィリピンの年間コメ輸入量の約8割を供給している。

タイ商務省とタイ米輸出業協会(TREA)の幹部も7月10日、コメ輸入を統制するフィリピン国家食糧庁(NFA)とマニラで協議し、フィリピン政府が年内に最低13万トンのタイ米を輸入する覚え書きを交わした。

TREAのデータでは、タイは今年前半に30万トンのコメをフィリピンに輸出し、輸出量は前年同期の6万2000トンから388%増加した。23年の輸出量は通年で約10万トンだった。

ある商社マンは取材を受け、「タイからフィリピンへのコメ輸出は今年前半に大きく増えた。供給不足に伴い、フィリピンは至急輸入に乗り出す必要があった。同時に、タイバーツの為替相場下落で、タイの輸出業者は競争力のある価格での供給が可能になった」と述べた。

NFAはこの件についてコメント要請に応じなかった。

タイ商務省が8月1日に行った発表によれば、タイは今年総量820万トンのコメを輸出する見通しだ。これは23年比6.5%減となるが、今年発表した以前の予想より9%増えている。

先の商社マンはタイがフィリピンへの輸出拡大に成功したら、ベトナム政府は警戒を強める必要があると指摘する。「ベトナム以前からフィリピンへの主要供給国だが、今年は競合国の動きが活発化しており、ベトナムも積極的な取り組みが欠かせない」

だが、TREAのチャルーン会長は取材を受け、「今年後半には市場でパキスタンからの供給が増え、タイが現状の競争力を保つのは難しくなる。またベトナムのコメ収穫量はタイを上回っており、ベトナムがより低価格で供給すれば、タイが競合するのは困難かもしれない」との見方を示した。

USDAの情報によれば、タイの平均コメ収穫量は1600平方メートル当たり400〜500キログラムで、ベトナムは同面積当たり700〜900キログラムだ。

この規模の経済性から、フィリピンが通常輸入する「砕粒率25%」のベトナム産白米は7月末時点で価格1トン520ドル(約7万6500円)となっており、同等品質のタイ米より1トン約30ドル割安だ。

チャルーン会長は「フィリピン市場では価格が重要だ。競争力のある低価格で提供できれば、競争に勝てる」と語った。

また同会長は世界のコメ産業がインドのコメ生産も注視していると指摘。インドでは今年、コメが余剰になると予想されており、インドの白米輸出禁止は解除されるかもしれない。その場合、インド産米が世界の市場に供給され、今年後半にコメ市場で価格競争を引き起こす可能性がある。

(バンコク=アポンラット・プンポンピパット)

[日経ヴェリタス2024年8月18日号 Nikkei Asiaから転載]

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