中国東方航空は7月、上海と仏マルセイユ間の直行便を開設した=PA・AP

【フランクフルト=林英樹、広州=田辺静】中国航空大手が積極的な増便にかじを切り、供給過多からアジア発着の国際航空運賃が下落している。新型コロナウイルス禍で旅行が制限された分の「リベンジ消費」も勢いを失いつつある中、需給ギャップが広がったためだ。

「去年の夏休みと比べ、旅行ツアー価格はかなり下がった。特に家族向けの団体ツアーの人気が高いよ」。広東省深圳市にある旅行会社の担当者は明るい声でこう語る。例えば日本への旅行だと1人6000元(約12万円)前後。昨年より1000~2000元下がったという。

主因は航空運賃の下落にある。中国の交通関連情報を取り扱う「航班管家DAST」によると、今年の夏季休暇期間は国際線チケットの平均価格が2183元で、2023年比で26%、コロナ前の19年と比べても12%下がった。

ゼロコロナで回復遅れ

中国政府が厳しく行動を制限する「ゼロコロナ」政策を23年1月まで継続した影響から、同国の航空・旅行業界の本格回復は遅れた。国内線は23年中に運航再開が進んだが、国際線については24年に入ってから回復が鮮明になった。中国の民用航空局は国際線の運航数が19年比で8割に戻ると予測する。

一部の航空大手は再開だけでなく、新航路の開設や増設にも動く。中国東方航空は7月までに上海とウィーン、仏マルセイユを結ぶ航空便の運用を始めたほか、ロンドンやマドリードの便を増やした。

中国南方航空は広州とブダペスト間、上海吉祥航空も上海と英マンチェスター、ブリュッセル、アテネ間の直行便を新たに設けた。全体では7月、中国とマレーシア、シンガポール、英国、イタリアを結ぶフライト数が19年より増加した。

夏季休暇期間の国際便は「旅行や留学の需要増で、日本や韓国、東南アジアのほか、航空各社が力を入れるデンマークやハンガリー、ギリシャなど欧州向けのフライトが増える見込みだ」(民用航空局)という。6月時点で中国―欧州便の74%は中国勢が占めた。

ロシア上空経由でメリット

欧州便を伸ばす背景に、中国航空大手は欧州勢と違い、ロシア上空の飛行が禁じられていないメリットがある。迂回ルートでの飛行を強いられる欧州勢に比べ、飛行時間を短縮して燃料費の節約が可能な上、世界的な人手不足が続くパイロットと乗務員の労働時間も短くでき、コストが抑えられる。

中国航空大手の増便はアジア航路全体の価格低下をもたらす。米アメリカン・エキスプレス・グローバルビジネストラベルは、24年のアジア―欧州便ではエコノミークラスが3.4%、ビジネスクラスが4%それぞれ安くなると予測する。

中国勢主導で供給増と運賃の低下で、欧州航空大手は収益が圧迫され、本格回復の向かい風となっている。

独ルフトハンザは4〜6月期、アジア路線の旅客1人あたりの収入が前年同期比10%減り、全体の純利益は47%減だった。カーステン・シュポア最高経営責任者(CEO)は中国航空大手の増便によって「アジア市場で異常事態が起きている」と指摘する。

4〜6月期の営業利益率が下がった英ブリティッシュ・エアウェイズは10月下旬からロンドン―北京便の運航停止を決めた。1日2便だった香港便も1便に減らす。アジア勢にも影響が出ていて、シンガポール航空は乗客数が14%増えたものの、運賃の下落から純利益は38%減った。

中国航空大手の増便に加え、リベンジ消費の軟化も影響する。国連世界観光機関(UNWTO)によると、国際観光の景況感を示す「信頼指数」ではピークの5〜8月が直前の1〜4月と同水準にとどまった。

ライアンエアーはアジア便以外も含めた夏季の航空運賃が「大幅に下落する」との見通しを示した。航空業界にとって厳しい状況は当面続きそうだ。

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