米ニューヨーク証券取引所=AP

【ニューヨーク=竹内弘文】8月初旬の相場急落で動揺した米株式市場が徐々に落ち着きを取り戻してきた。ダウ工業株30種平均は約2週間ぶりに4万ドル台に回復した。ハイテク株への資金回帰がみられ、市場の不安心理を映す指数も相場急落前の水準に戻った。景気先行きへの警戒はくすぶるも、市場は危機モードからの脱却を探っている。

インフレ鈍化、投資家心理が改善

ダウ平均は14日に続伸し、前日比242ドル(0.6%)高の4万0008ドルで引けた。1〜5日の3営業日でダウ平均は計2139ドルも下げたが、以降の相場回復で約6割を取り戻した計算になる。不安心理を反映するため「恐怖指数」とも呼ばれる、S&P500種株価指数の変動性指数(VIX)は14日に16台となり、7月下旬以来の低水準を付けた。

この日焦点となったのは7月の米消費者物価指数(CPI)だ。前年同月比2.9%上昇となり、伸び率は21年3月以来の低さとなった。インフレ沈静化がデータ上明らかになり、投資家心理を支えた。

機関投資家、5週ぶりに買い越し

8月初旬の相場急落は、7月の雇用統計など市場予想対比で悪い指標が続いたことで米景気不安がにわかに台頭。ほぼ同じタイミングであった日銀の利上げも相まって、世界の金融市場が混乱に陥り、市場参加者は一気にリスク回避姿勢を強めた。

人工知能(AI)期待を背景に世界中からマネーを集めていた米ハイテク株は売りにさらされた。特に先物を通じてハイテク株投資を膨らませていた商品投資顧問(CTA)と呼ばれるヘッジファンドが「リスク管理上、持ち高の整理に動いた」(米ヘッジファンド調査担当者)。VIXは2日に心理的節目とされる20を突破し、5日には38台へと急上昇していた。

悲観一色だった雰囲気が変わってきたのは、急落後に機関投資家の買いが次第に鮮明になってきたためだ。米BofAセキュリティーズの顧客は、5〜9日に米株式を58億ドル(約8500億円)買い越しした。

週次売買動向が買い越しとなるのは5週ぶりで「資金流入額は2008年以降で10番目の大きさとなった」(BofAのジル・ケアリー・ホール氏)。ヘッジファンドが売る一方で長期目線の機関投資家や事業法人が買い向かうという構図だった。

ハイテク株で運用するファンドの資金動向からも投資家の売り一服感が見てとれる。米調査会社EPFRによると、半導体やIT(情報技術)、電子機器を主な投資対象とするファンドからは相場急落直後の6〜7日は計36億ドルの資金流出があったものの、8日からは資金流入に転じている。

今後の焦点は雇用動向

米連邦準備理事会(FRB)の使命の1つである「物価安定」は達成が視野に入るなか、もう一つの使命である「雇用最大化」に重点が移る。利下げへの道筋が整ったとして金融市場は9月の利下げ実施を100%織り込む。

残る懸念は、多くの市場参加者がメインシナリオに据える米経済の軟着陸(ソフトランディング)が実現できるかどうかだ。労働市場や個人消費の動向を見るうえで15日発表の7月の米小売売上高や30日の7月米個人消費支出(PCE)、9月6日の8月雇用統計への関心度が市場では高い。

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