タイはセター首相の解職で政情不安が強まる恐れがある

【バンコク=井上航介】タイで国軍の影響下にある憲法裁判所は14日、セター首相に解職命令を下した。4月の内閣改造人事に倫理上の問題があり、本人に任命責任があると認定した。現役首相の任期途中での解職は異例だ。政局の混迷が深まり、国の成長にも影を落とす恐れがある。

セター政権は2023年9月に同氏が所属するタクシン元首相派「タイ貢献党」と長年対立してきた国軍の傘下にある親軍政党の大連立で発足した。判決をきっかけに連立政権内の関係悪化は避けられない情勢だ。

国軍の影響下にある上院議員ら40人が5月中旬にセター氏の解職を求めて憲法裁に訴えていた。4月下旬の内閣改造人事で首相府相に任命したピチット氏には犯罪歴があり、セター氏に任命責任があると主張していた。

タイでは長年にわたり国軍が政治に関与してきた。憲法裁は14年のクーデターで発足した軍事政権が指名した裁判官で占めている。今回の判決は連立政権で主導権を握る貢献党の力を抑え、自身の影響力を強めたい国軍の意向を反映したものとみられる。

今後は国会で新首相の指名選挙が実施される見通しだ。選出には下院(定数500)の過半数の賛成が必要だが、最大与党である貢献党も保有議席は141にとどまる。首相選出には複数の政党の協力が欠かせず、各党が協議を急ぐもようだ。

憲法裁は7日にも民主派の最大野党「前進党」に解党命令を下している。下院の最大勢力だったが、主要政策の王室に関する不敬罪の改正が違憲と判断された。同党の支持者が反発を強めるなか、今回の判決と相まって政局は一段と混乱する可能性がある。

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