欧州連合(EU)の執行機関、欧州委員会のフォンデアライエン委員長の続投が決まった。内外の環境が激変するなか、EUが自由と民主主義を柱とする既存の国際秩序を守る役割を果たせるよう、指導力を発揮してもらいたい。
フォンデアライエン氏は2019年から現職にあり、欧州議会が続投を承認した。任期は5年。またEU大統領にはポルトガルのコスタ前首相が、外交安全保障上級代表にはエストニアのカラス前首相がそれぞれ指名された。
主要なポストを占める3人は欧州統合を支持する中道派だ。ウクライナ侵略を続けるロシアを許さない厳しい姿勢も共有し、従来の路線を堅持するだろう。
世界とEUはかつてない試練に直面し、自由で公正な国際秩序を維持することは容易ではない。フォンデアライエン氏は欧州議会で「民主主義を守るより強い欧州」をつくる決意を表明した。
最大の脅威は言うまでもなくロシアだ。親ロシアのハンガリーが独断で仲介外交に乗り出し、EUの結束維持も課題となった。
6月の欧州議会選、それに続くフランス下院選では反EUの極右勢力が台頭した。11月の米大統領選で「米国第一主義」を唱えるトランプ氏が勝てば、米国との協調体制にも亀裂が生じかねない。
フォンデアライエン氏が域外からの偽情報の流布や選挙介入を防ぐ政策を言明したのは適切だ。防空網の構築など「真の欧州防衛同盟」も掲げたが、北大西洋条約機構(NATO)と役割が重複しないよう議論を深めるべきだ。
極右の伸長を重く受け止め、欧州の分断を防ぐ努力が欠かせない。インフレによる生活圧迫や移民問題に対する不満への対策は急務だ。脱炭素への環境政策を後退させず、人工知能(AI)などで産業競争力を高める必要もある。
日本は自由で開かれた国際秩序を維持する目標を米欧と共有する。強権的な中国とロシアの接近に対抗するため、EUとの戦略的関係を一段と深めねばならない。
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