イスラム組織ハマスとの一連の衝突が始まって以降、初めてアメリカを訪問しているイスラエルのネタニヤフ首相は24日、アメリカ議会の上下両院の合同会議で演説を行いました。

このなかで、ネタニヤフ首相は「ハマスが降伏すればあすにでも戦いは終わるが、そうでなければイスラエルは、ハマスの軍事力と統治を壊滅させ、すべての人質を取り戻すまで戦う」と述べてハマスの壊滅と人質全員の解放を実現するまで戦闘を続ける考えを改めて強調しました。

そして「アメリカの迅速な軍事支援がガザ地区での戦闘終結を劇的に早め、中東における紛争の拡大を防ぐ」と述べた上で「われわれに迅速に道具を与えればより早く仕事を終わらせる」という第2次世界大戦中にアメリカに武器の供与を求めたイギリスのチャーチル元首相のことばを引用し、アメリカからの軍事支援の強化を訴えました。

ガザ地区の保健当局は24日、これまでの死者が3万9145人にのぼったと発表し、停戦に向けた交渉が進展する兆しが見えない中、住民の犠牲が増え続けています。

議会では大きな拍手 一方でブーイングも

ネタニヤフ首相は、議会に大きな拍手で迎え入れられ、演説中には何度もスタンディングオベーションを受けていました。

ただ、民主党の一部の議員は、拍手を送ることはなく、ネタニヤフ首相が、アメリカ国内での抗議デモを批判した時には、ブーイングも起きていました。

民主党の議会上院トップのシューマー院内総務は、ユダヤ系でイスラエルを支持する一方、ネタニヤフ首相には批判的な発言もしていて、演説中には拍手を送らない場面がありました。

また、パレスチナ出身の民主党のタリブ議員は、「戦争犯罪者」などと書かれたメッセージを掲げ、演説を聴いていました。

CNNテレビは民主党の重鎮、ペロシ元下院議長をはじめ、50人近くの民主党議員が演説に参加しない予定だと伝えていました。

また、上院議長を兼務するハリス副大統領も、演説の日程が決まる前に予定が入っていたとして、欠席しました。

訪米 ネタニヤフ首相のねらいは

ネタニヤフ首相は今回の訪米で、バイデン大統領との会談に加えて4度目となるアメリカ議会での演説を行い、これはイギリスのチャーチル元首相を上回り、最多の回数になると伝えられています。

ネタニヤフ首相はイスラエルへの軍事支援を続けるバイデン政権が、ガザ地区での住民の犠牲への懸念から一部の大型の爆弾について輸送を停止したことを強く批判してきましたが、今回の演説ではこれまでのアメリカからの支援に謝意を示すと見られています。

そのうえで、イスラム組織ハマスに加えレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラや、イエメンの反政府勢力フーシ派などイランの支援を受ける武装勢力との戦いを続けていることを強調し、今後もアメリカからの超党派による支援を求めていく考えです。

一方で今月行われた世論調査で、ネタニヤフ首相について44%が「いますぐ辞任すべき」、28%が「軍事作戦終了後に辞任すべき」と回答するなど、国民の7割あまりが首相の辞任を求めているという結果も出るなど、イスラエル国内で強い批判にさらされています。

そのため、アメリカ訪問を通して国内向けに指導力をアピールする狙いもあるとみられます。

イスラエルメディア「タイムズ・オブ・イスラエル」の記者でネタニヤフ首相を長年取材してきたタル・シュナイダーさんは「国内で支持を得られていないネタニヤフ首相の主な目標は国内からの支持を再び得ることだと思うが、世論の雰囲気を変えることができるとは思わない」と指摘しています。

バイデン大統領が大統領選挙で選挙戦から撤退する考えを表明したことについてネタニヤフ首相は「バイデン大統領がこの戦争の間にイスラエルのために行った支援に感謝する」としたうえで「誰が次の大統領として選ばれようと、イスラエルは中東におけるアメリカの強固な同盟国だと伝えたい」としていて、軍事支援の継続をアメリカに求めるものとみられます。

アメリカ側のねらいは

アメリカ議会のジョンソン下院議長など上下両院の与野党の指導部は、ネタニヤフ首相を招待することでイスラエルへの連帯を強く打ちだしたい考えです。

ただ、一部の民主党の議員などは反対し、ネタニヤフ首相の上下両院の合同会議での演説への参加を見送ると表明している人もいて、一枚岩となってはいません。

また、国内外の世論がイスラエル軍のガザ地区への攻撃に反発を強める中、バイデン政権としては、ネタニヤフ首相が首都ワシントンを訪れる機会をとらえ、停戦と人質解放に向けた交渉のこう着状態を打開するきっかけにしたいと考えているとみられます。

バイデン大統領とネタニヤフ首相は、会談を行う見通しで、対面での会談が実現すれば、去年10月にバイデン大統領が連帯を示すためイスラエルを訪問して以来、9か月ぶりとなります。

バイデン大統領とネタニヤフ首相の間にはガザ地区への攻撃のあり方などをめぐり隙間風が吹いているとも伝えられていますが、会談を通じて、交渉を前に進め、合意の実現につなげたい考えです。

しかし、バイデン大統領がネタニヤフ首相の訪米直前に秋の大統領選挙からの撤退を表明したことで、バイデン大統領の影響力が低下する可能性が指摘されています。

バイデン政権の関係者は交渉に支障はないと主張していますが、ただでさえ停滞する交渉の進展がさらに難しくなる可能性もあります。

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