インド総選挙(下院選)の投票が19日に始まった。有権者数が約9億7千万人という世界最大の国政選挙は、混乱を避けるため州や地域を7つに分けて順次投票し、6月4日に一斉開票する。
「グローバルサウス」と呼ばれる新興国・途上国のなかで、インドは自他共に認めるリーダー的な存在だ。国内の分断をあおることなく選挙を自由・公正に遂行し、後退が指摘される民主主義の価値を示してほしい。
5年ぶりの総選挙は政権を2期10年担ってきたモディ首相の最大与党、インド人民党(BJP)の優勢が伝わる。世界銀行が2023年度の実質国内総生産(GDP)伸び率を7.5%と見込むなど高い経済成長が追い風になる。
20党以上が共闘する野党連合は離脱や造反で足並みが乱れ、首相候補すら決められない状況だ。
モディ氏は自国を「世界最大の民主主義国」と自賛するが、実際は強権的な姿勢が目立つ。
BJPは国民の8割を占めるヒンズー教徒の支持固めに躍起だ。モディ氏は1月に北部のヒンズー教寺院を訪れた。かつて過激派が破壊したイスラム礼拝所の跡地で、建設中にもかかわらず人気取りを狙って開設式を行った。
3月に施行した改正市民権法は近隣国から迫害を逃れてきた人に市民権を与えるが、イスラム教徒は対象から外した。
同じ3月にはデリー首都圏政府の首相で反モディの急先鋒(せんぽう)の野党党首を、汚職容疑で逮捕した。選挙直前の摘発に国内外から不当だとの批判が出た。
他宗教や野党への弾圧は、信仰や主張が異なる相手に対して多数派の不寛容を助長し、少数派にも配慮する民主主義の精神と相いれない。モディ氏は自制すべきだ。
スウェーデンのV-Dem研究所によれば、世界の民主主義の度合いは近年劣化が著しく、23年は冷戦期だった1985年と同水準まで下がった。世界最大の民主国家を自任するインドに、憂うべき状況の歯止め役を期待したい。
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