【ニューヨーク=竹内弘文、ロンドン=大西康平】19日の米欧金融市場では、イスラエルによるイラン攻撃を経ても影響は限られた。攻撃の規模は抑制的で目先の衝突拡大の懸念が後退したとの受け止めが広がり、米ダウ工業株30種平均は上昇した。ただ、半導体株の調整色が強まる中での中東緊迫リスクは、先行き不透明感を一段と強める要因となっている。
米ダウは上昇、原油・ガスは下落
米東部時間18日夜、イラン中部イスファハン州で爆発の発生が伝わった直後はリスク回避姿勢が鮮明となり、ダウ平均先物が500ドルあまり急落する場面があった。取引時間中だったアジアの株式市場も軒並み下落し、日経平均株価は1011円安で引けた。
攻撃の全体像が見えてくるにつれて市場の評価は変わっていった。イランメディアは爆発が迎撃に伴い空中で起きたもので、被害は最小と伝えた。13日のイラン側のイスラエル攻撃も含め、両国の間の応酬は抑制的なものだとの見方が出ている。
欧州株の指数、ストックス600は19日に前日比0.1%安でとどまり、ダウ平均はむしろ前日比211ドル(0.6%)高の3万7986ドルで引けた。UBSグローバル・ウェルス・マネジメントの米州最高投資責任者、ソリタ・マルセリ氏は「中東での攻撃や緊張は今後数カ月続くものの、大規模な対峙には至らない」とみる。
エネルギー価格は振れ幅が大きい展開となった。米国の原油指標であるWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)先物は一時1バレル86ドル台に乗せ、攻撃前比4%程度急伸するもすぐに伸び悩み、米東部時間19日午後4時時点で83ドル台で推移する。天然ガス指標のオランダTTFの翌月渡し物価格は1メガワット時あたり30ユーロ台と、前日比5%安だった。
イランは世界の石油供給や液化天然ガス(LNG)輸送の約2割を占めるホルムズ海峡に面する。中東緊迫がエネルギーの供給制約につながるとの指摘がかねてあるが、市場は今回の攻撃を比較的冷静に受け止めた。
英キャピタル・エコノミクスのチーフ商品エコノミスト、キャロライン・ベイン氏は「もしイスラエルがイランの石油施設を攻撃すれば米国といった西側諸国の、イランがホルムズ海峡を封鎖すれば中国からの支持を失う」と分析。両国が自国の利益を損ねてまで強硬策を取らず「市場は輸出への影響は出ないと見越している」とみる。
揺らぐ半導体期待、NVIDIA10%安
抑制的だったはずの攻撃が意図せず大きな打撃となり、緊張がエスカレートしていく展開も当然あり得る。地政学リスクの沈静化には時間がかかりそうだ。中期的に投資家心理を冷やす恐れがある。
ただでさえ、これまで世界の相場のけん引役だったハイテク株は調整色が強まっている。特に半導体株は大崩れし、半導体世界大手の米エヌビディアは19日、10%安と急落し、約4年ぶりの下落率を記録した。
半導体受託生産大手の台湾積体電路製造(TSMC)が半導体業界全体の生産予想を下方修正し、ハイテク株の株高を支えてきた成長期待が揺らいだ。米連邦準備理事会(FRB)の利下げ先送り観測の高まりも、ハイテク株の重荷となっている。
ハイテク株の比率が高いナスダック総合株価指数は週間で5.5%下げ、週間の下落率は約1年5カ月ぶりの大きさ。別の主要指数、S&P500種株価指数は19日、約2カ月ぶりに5000の大台を割り込んだ。
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