ワシントンで10日、NATO首脳会議に招かれた岸田文雄首相(右端)やウクライナのゼレンスキー大統領(右から3人目)=ロイター

【ワシントン=三木理恵子】岸田文雄首相は11日、ワシントンで北大西洋条約機構(NATO)の首脳会議に出席した。NATOと日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランド(NZ)の間で、サイバーや偽情報など4分野の協力を進める。ユーラシア大陸の東西から中国とロシアを挟み、地域横断で対処にあたる。

NATOが10日に公表した首脳宣言は「日韓豪NZと地域を超えた課題に取り組む対話を強化している」と明記した。①ウクライナ支援②サイバー防衛③偽情報対策④テクノロジー――の4分野を示し「これらの計画が共通の安全保障上の利益を高める」と指摘した。

NATOは北米と欧州の32カ国が加盟する軍事同盟だ。日本はパートナー国として首脳会議に招待された。3年連続の出席となった首相は11日の拡大会合に加わり、スピーチで「欧州・大西洋とインド太平洋の安保は不可分だ」と表明する。

東・南シナ海の現状に触れ、中国を念頭に「力による一方的な現状変更の試みは認められない」と強調する。ロシアと北朝鮮の関係強化を「深刻に憂慮する」と訴える。

NATOとインド太平洋の4カ国は中国やロシアの脅威が明確になってきたサイバーや偽情報に地域をまたいで防衛網を張る。NATOのサイバー演習への参加や偽情報対策の知見共有など、具体的な協調策をこれから積み上げていく。

防衛装備を巡り、人工知能(AI)や量子といった新興技術を補完し合う。中国がAI兵器の開発に注力するなど最新の軍事情勢に対応する狙いがある。ウクライナ支援は医療を通じた貢献を模索する。

ウクライナ侵略から2年半ほど経過し、米欧のアジア周辺の安保環境への認識は変化した。

NATOは2022年に中国を初めて「体制上の挑戦」と文書で位置づけ、加盟する米欧の軍がインド太平洋に頻繁に軍を派遣している。

7月後半にはドイツ、フランス、スペインの各軍がインド太平洋に空軍機を派遣し、航空自衛隊と共同訓練に臨む。

中国はエネルギーの輸入や軍事転用可能な物資の輸出などを通じてロシアの戦時経済を支える。北朝鮮はロシアにミサイルや砲弾などを提供している。北朝鮮製の武器がウクライナ、欧州で使用される危機感がNATO内で募っていると日本外務省は分析している。

NATOが「360度アプローチ」を迫られるだけでなく、日本もアジアで中国、北朝鮮、ロシアの3正面作戦を強いられている。

日本はNATOと足並みをそろえている。防衛費を国内総生産(GDP)の2%に高める目標を掲げ、敵のミサイル発射拠点をたたく「反撃能力」の導入を決めた。

首相とストルテンベルグ事務総長は11日の会談で、日NATO間で高度なセキュリティーを備えた専用の通信回線の新設で一致した。

日本側からみると、いまのうちにNATOと方針を擦り合わせておく意味は大きい。11月の米大統領選は在任時にNATO不要論を唱えたトランプ前大統領が返り咲きを目指す。

NATOの主要国である英国で政権交代が起こり、フランスやドイツも政権基盤が弱まっている。中国が27年にも台湾に侵攻するとの分析が米国で出る状況で、米欧を巻き込んでアジアの備えを手厚くする狙いがある。

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