フランスの国民議会(下院)選挙がこのほど実施され、野党で左派連合の新人民戦線(NFP)が最大勢力となった。ただ過半数には遠く及ばず、内政の混乱が長引く恐れがある。フランスは政治不安が広がるのを避け、欧州の安定維持に尽くしてほしい。
今回の選挙は6月上旬の欧州議会選で極右の国民連合(RN)が躍進したことを受け、マクロン大統領が決めた。民意を改めて問うとして、RNの勝利を阻むための賭けに出た形だった。
6月30日の第1回投票に続いて7月7日の決選投票でもRNの優位が事前に伝えられた。だがNFPと中道の与党連合が候補者を調整する選挙協力に踏み切り、RNを第3勢力に抑え込んだ。
それでもマクロン政権は与党連合が議席を大幅に減らし、第2党に後退した結果を重く受け止めるべきだろう。他の欧州諸国でもインフレの高まりや移民問題などへの対応が後手に回る政権への不満が高まり、政治の地殻変動が止まらなくなっている。
4日の英国総選挙では最大野党の労働党が大勝し、14年ぶりの政権交代を果たした。2022年にはイタリアで極右とされるメローニ政権が誕生した。今回の仏下院選も含め欧州政治の激変は、今年11月の米大統領選や25年のドイツ連邦議会選にも影響を及ぼす。
フランスの内政では今後、NFPと与党連合、RNが三すくみでけん制し合う「ハングパーラメント(宙づり議会)」に陥る恐れが指摘される。新たな首相選びが難航したり、法案審議などが停滞したりする可能性がある。マクロン氏は自ら招いた混乱の収拾へ指導力を発揮してもらいたい。
NFPが首相を出せば仏経済への信頼が揺らぐとの懸念がある。最低賃金の引き上げや富裕層への課税強化、年金改革の撤回を掲げている。悪化する仏財政を無視した人気取り政策は、世界的な金融市場の混乱を招きかねず、日本の経済界も警戒が必要だ。
ドイツとともに欧州連合(EU)をリードするフランスの政治不安の波紋は国外に広がる。
外交や安全保障は大統領が担当するものの、マクロン氏が政府や議会との調整に追われれば、EUや北大西洋条約機構(NATO)でのリーダーシップの発揮は難しくなる。日本政府もフランスの政局がアジア太平洋地域に与える影響を見極めなければならない。
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