予想外の辛勝だった。インド総選挙(下院選、定数543)でモディ首相率いる最大与党のインド人民党(BJP)が議席を大きく減らした。与党連合としては過半数を維持し、首相は続投する。
経済成長を追い風に大勝を狙ったが、成長に取り残された低所得層の不満や強権的な政治への批判が表れた。民意を謙虚に受け止め、国内融和に努めるべきだ。
有権者数が9億7千万人と世界最大の選挙は4月半ば以降、7つの地域で順次投票し、4日に一斉開票した。政権を2期10年担ってきたモディ氏の人気を背景に、BJPの圧勝が確実視されていた。
蓋を開ければBJPの議席は2019年の303から240へ減少した。モディ氏が首相候補になって以降、単独過半数を割り込むのは初だ。協力政党を含む与党連合では293を確保したものの、国民会議派を中心とする野党連合(232)に追い上げられた。
モディ氏は「3期目で歴史をつくる」と勝利宣言し、与党連合も首相続投に同意した。だが求心力の低下は避けられそうにない。
有権者の離反は、モディ氏の政権運営に対する不満が原因だ。
昨年、中国を人口で抜いたインド経済は内需拡大で成長を続け、23年度の実質国内総生産(GDP)伸び率は8.2%に達した。ただ世界銀行によると22年の1人あたりGDPは2410ドル(約37万円)にとどまり、格差が広がる。毎年1千万人を超す若者が新たに労働市場に加わるなか、若年失業率の高止まりは深刻な課題だ。
「ヒンズー至上主義」を掲げるBJPは宗教少数派への抑圧的な政策も目立ち、選挙戦中にモディ氏がイスラム教徒を「侵略者」と呼び物議を醸した。8割を占めるヒンズー教徒の支持目当てで宗教対立をあおる姿勢に、世俗的な有権者が反発した可能性がある。
数の力への過信が透ける与党におきゅうを据えるかのような選挙結果は、民主主義が機能している証左といえる。インドは「グローバルサウス」と呼ばれる新興・途上国の代表的な存在だ。国内の分断の修復を急ぎ、国際社会でも指導力を発揮してもらいたい。
日本とインドは首相が毎年相互に訪問し合うなど緊密な関係を築いてきた。米国とオーストラリアを加えた4カ国の枠組み「Quad(クアッド)」でも連携する。製造業の育成などで協力し、インドの課題解決を後押ししたい。
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