ユーロ圏20か国の金融政策を束ねるヨーロッパ中央銀行は、インフレを抑え込むためおととし7月から10会合連続で利上げを行い、現在、主要な政策金利は4.5%、金融機関から資金を預かる際の金利は4.0%となっています。
ユーロ圏の消費者物価指数は前の年と比べた伸び率がおととしには一時、10%を超えていましたが、高い金利水準を受けて先月は2.6%と、このところ2%台で推移しています。
また、景気への影響の懸念も大きくなっていることから、市場ではヨーロッパ中央銀行が日本時間の6日夜、金融政策を決める理事会で利下げを決めるという見方が広がっています。
利下げを決めれば、2019年9月以来、4年9か月ぶりです。
会合のあとの記者会見で、ラガルド総裁が今後の追加の利下げの見通しに言及するかどうかも注目されます。
アメリカでは根強いインフレでFRB=連邦準備制度理事会の利下げの開始時期が遅れるという観測が出ていますが、ことしに入り、スイスとスウェーデンの中央銀行がすでに利下げを決め、今月5日にはカナダの中央銀行も利下げに踏み切っています。
高い金利水準続き 企業活動にも影響
ユーロ圏では利上げに伴って高い金利水準が続いた影響で企業活動にも大きな影響が出ています。
このうち、ドイツ北部のハンブルクでは、完成すれば高さおよそ240メートルと、国内で3番目の高層ビルとなる予定だった建物の工事が中断されたままになっています。
計画を進めていたオーストリアの不動産会社が去年、金利高に伴う資金繰りの悪化で破産を申請し、ビルを所有するドイツの企業もことし倒産したためで、工事の再開のめどはたっていないといいます。
ドイツの不動産コンサルタントによりますと、ことし1月から3月までの国内の不動産会社や建設会社の倒産件数は630社に上り、前の年の同じ時期と比べて18%増加したということです。
ドイツ最大の経済団体「ドイツ産業連盟」の経済アナリスト、クラウス・ドイチェ氏はヨーロッパ中央銀行の利上げでインフレが落ち着いたことは歓迎すべきだとする一方、「建設業界は資金調達で非常に大きな打撃を受けている。ことしとおそらく来年は建設業界の経済活動が停滞するだろう」と述べ、金利が高いままだと企業活動への影響は続くと指摘しています。
アイルランド 住宅ローン金利 “最高水準”で懸念も
ユーロ圏ではヨーロッパ中央銀行の政策金利に連動する形で、住宅ローンの金利が大きく上昇してきました。
このうち、アイルランドでは住宅ローンの固定金利と変動金利の平均は利上げが始まったおととしは2%台でしたが、ことし3月の時点では4.3%とこの10年近くで最も高い水準となっています。
首都ダブリン北部の住宅地で住民に話を聞くと、新築の家のために高い金利でローンを組まざるをえなかったという声が聞かれました。
去年5月に新居に引っ越したという30代の女性は4%近くの固定金利でローンを組み、月におよそ1500ユーロ、日本円で25万円余りを支払っているといいます。
女性は「5年間の固定金利のため、あと4年は払い続けなければなりません。金利がものすごく高くて、これは災害のようなものだ」と話していました。
また、地元のメディアによりますと、過去に低い金利で借りたローンを現在の高い金利で借り換える必要がある人がことしおよそ8万人いるとされ、返済額が膨らむことでローンの滞納が懸念されているということです。
このため、ダブリンにあるローンの借り換えの代行業務などを担っている会社には、ことしに入ってから毎月400件余りの電話相談が寄せられているといいます。
この会社のデビッド・カーCEOは「顧客は従来より多くの額を住宅ローンに毎月費やすことになり家計にかなりの打撃となる。ヨーロッパ中央銀行が利下げすれば顧客は最終的に恩恵を受けるため歓迎だ」と話していました。
専門家「政策金利がどうなるかは不透明感残る」
ヨーロッパ中央銀行の今回の会合での政策判断について、ニッセイ基礎研究所の高山武士 主任研究員は「利下げはほぼ既定路線だ。ヨーロッパ中央銀行にはこれまでの金利の引き上げで成長率を下げてインフレも抑えようという意図があった。2%の物価目標に向けてインフレ率が下がるという確信が高まり、利下げの判断ができるようになったと思う」と指摘しています。
そのうえで「今回の会合での利下げについて市場はほぼ織り込んでいるが、ことし後半にかけてあと何回利下げするかはほとんどヒントがない状態だ。政策金利がどうなるかは不透明感が残っている」と述べ、ラガルド総裁が記者会見で物価動向の評価やこの先の利下げの見通しにどのような言及をするか、注目されているとしています。
そして、外国為替市場への影響については「日本は金利を低く抑えてきたので、今は歴史的な円安水準にある」としたうえで、「ヨーロッパ中央銀行がこの先の利下げを慎重に見たいということになれば、金利は高くなる方向となりユーロ高円安が進む。逆に淡々と利下げができそうだという判断になるとユーロ安円高に動くという反応が見込まれる」との見方を示しました。
高山主任研究員は「コロナ禍以降、景気の向いている方向は世界全体で似ていたが今はばらばらな状態にあり、各地域の状況をつぶさに見ていかないと市場の動向は読み解きにくい」としてそれぞれの中央銀行の政策判断を注意して見ていく必要性を強調しました。
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