韓国の脱北者団体「自由北韓運動連合」は6日、北朝鮮に向けて、金正恩(キムジョンウン)総書記を批判するビラ20万枚などを大型の風船10個を使って飛ばした、と発表した。やめるように牽制(けんせい)していた北朝鮮の反発は必至で、また韓国に「汚物風船」を飛ばす可能性がある。

 団体によると、南北の軍事境界線に近い韓国北部の京畿道(キョンギド)・抱川(ポチョン)から6日未明に風船を飛ばした。金総書記を批判するビラ20万枚のほか、Kポップや韓国ドラマ「冬のソナタ」の動画などを保存したUSBメモリー5千個、1ドル紙幣2千枚などをくくりつけて飛ばしたという。

 団体は声明で、北朝鮮が最近、韓国に「汚物風船」を飛ばしたことを非難。金氏が謝罪しない限り、同様のビラ散布を続けると主張した。

 韓国政府はビラ散布について、「表現の自由の保障という憲法裁判所の決定の趣旨を考慮して対応する」(統一省)とし、ビラ散布の自粛は求めない立場をとっている。

 北朝鮮は、軍事境界線の近くに配備された兵士や住民が内容をみて韓国にあこがれを抱いたり、北朝鮮の体制に疑問を抱いたりすることなどを警戒し、韓国側からのビラ散布に強く反発してきた。韓国の北朝鮮研究者は「指導者の偶像化に反するような外部からの情報流入は、北朝鮮にとっては容認できず、敏感に反応している」と指摘する。

 北朝鮮が2020年に開城(ケソン)に設けられていた南北共同連絡事務所を爆破した際にも、韓国の脱北者団体が体制批判のビラを風船で飛ばしたことがきっかけとなった。

 団体は5月10日にビラなどを風船で飛ばしたが、北朝鮮は5月下旬以降、対抗措置としてゴミなどをくくりつけた「汚物風船」を約1千個、韓国に向けて飛ばした。さらにミサイル発射や全地球測位システム(GPS)の妨害など韓国側への圧迫を強めてきた。

 北朝鮮は2日にいったん、汚物風船の散布を「暫定的に中断する」と表明した一方、韓国の脱北者団体がビラの散布を続ければ「100倍の紙くずと汚物を集中散布する」とも警告していた。再びビラを散布したことで、北朝鮮の強い反発は避けられない情勢だ。

 一方、韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領は6日の演説で、最近の北朝鮮による「卑劣な挑発」に触れ、「断固かつ圧倒的に対応していく。平和は力によって守るものだ」と述べた。

 韓国政府は北朝鮮に対抗し、4日に南北軍事合意の全面的な効力停止を決めた。5日には朝鮮半島上空で米韓両軍の合同空中訓練も実施された。朝鮮半島情勢の緊張が高まっている。(ソウル=稲田清英)

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