シンガポールのウォン新首相は新たな成長モデルを見出す重責を担う(15日の就任式)=ロイター

シンガポールの第4代首相に副首相だったローレンス・ウォン氏が就任した。首相交代は20年ぶりで、強い指導力を発揮して国際的にも影響力があったリー・シェンロン氏の後を継いだ。

米中対立やロシアのウクライナ侵略、中東紛争など世界の分断が深まるなか、グローバル化を成長の原動力としてきた同国には逆風が吹く。新首相は驚異的な発展を遂げてきた都市国家を、持続的な安定成長へと導く重責を担う。

同国は1965年の独立以来、故リー・クアンユー、ゴー・チョクトン、リー・シェンロンの3氏が首相を務め、高効率の国家運営で貿易・金融や先端製造業のハブとしての地位を確立した。2007年に1人あたり国内総生産(GDP)で日本を抜き、アジアで最も豊かな国をつくり上げた。

官僚出身のウォン氏は11年に政界入りし、新型コロナウイルス禍では政府の責任者として危機対応にあたった。与党・人民行動党(PAP)の「第4世代指導層」の総意で首相昇格が内定していた。

15日の就任式で「新たな現実に適応しなければ」と語ったとおり内外の環境は激変している。

18年に米国と北朝鮮に史上初の首脳会談の場を提供したように同国は分断の仲介役を演じてきた。今後も中立外交を維持するが、ウォン氏の外交手腕は未知数だ。

持続成長にも黄信号がともる。同国は90年代から外国人に門戸を開き、総人口560万人の3割を占める。だが専門人材の流入がシンガポール人から雇用や賃金向上の機会を奪っているとの不満が強まり、政府は軌道修正を迫られている。少子高齢化が進むなか、合意形成に基づく対応策が急務だ。

PAPは建国以来、政権を独占してきた。20年の前回総選挙での与党の得票率は過去3番目の低さで、成長鈍化や強権的な政治手法への不満が表面化した。来年11月までに実施する次の総選挙は新首相への信任投票の意味を伴う。ウォン氏は民意とも向き合い、政権運営を軌道に乗せる必要がある。

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