ロシアのプーチン大統領は7日、モスクワで就任式に臨んだ=ロイター

ロシアのプーチン大統領は7日、大統領就任式で宣誓し、通算5期目に入った。国民の団結を強調し、ウクライナ侵略を念頭に欧米との対立をいとわない姿勢を示した。戦時下の大統領として侵略長期化に向けた体制構築を急ぐ方針だ。

プーチン氏はモスクワの大統領府で宣誓後に演説し「ロシアを守る。国民の利益と安全を何よりも優先する」と語った。ウクライナでロシアが進める「特別軍事作戦」に参加する兵士らに謝意を示した。

「あらゆる障害を克服し、共に勝利しよう」とも述べ、国民に団結を訴えた。長引くウクライナ侵略や欧米諸国との対立を念頭にした発言とみられる。

ウクライナ侵略を批判し対ロ制裁を強める欧米に向けて「我々は西側諸国との対話を拒否しているわけではない」と述べた。「選択は彼ら次第だ」とも強調し、相互の利益の尊重が対話の前提になるとの姿勢を示した。

米国など西側諸国が主導する世界秩序からの転換を改めて訴えた。「多極的な世界秩序の形成に向けて取り組んでいく」と言及した。

現在71歳のプーチン氏の任期は2030年までとなる。さらに続投すれば、83歳まで権力の椅子に座り続けることも可能だ。プーチン氏は政権基盤を盤石にするため憲法改正を繰り返した。08年の憲法改正で大統領任期を4年から6年に延長し、20年の改憲では大統領任期を通算2期と定めた。

今年も3%以上の成長

ロシアは22年2月にウクライナへの侵略を開始した。欧米から対ロ制裁が続く中、軍需関連産業が成長の柱となっている。

23年の国内総生産(GDP、速報値)は22年に比べて3.6%増加し、2年ぶりのプラス成長となった。国際通貨基金(IMF)は4月に公表した経済見通しで、ロシアの24年成長率を3.2%に上方修正しており、今年も3%以上の成長が続くとの見方が多い。

ロシア民間世論調査会社レバダセンターの調査ではプーチン氏の3月の支持率は87%とウクライナ侵略後で最高となった。

高い支持率背景に不人気策へ、過去にも例

高い支持率を背景に、政権がウクライナへの侵略継続に向けて国民の支持を得にくい政策を導入する環境は整っている。

ロシアの独立系メディアは3月、プーチン政権が個人所得税の最高税率を現在の15%から20%に引き上げる可能性があると報じた。高所得層からの税収を増やし、歳出増を賄うとみられる。

プーチン政権は過去にも新たな任期の開始直後に不人気政策を断行した実績がある。4期目に入った18年には、年金受給開始年齢を段階的に引き上げる年金改革を実施した。ロシア各地で抗議行動が広がった。

ロシアは石油やガス輸出による税収が歳入の柱で、石油・ガス収入は3割超を占める。足元では中国などアジアへの輸出シフトを進めているとみられる。ロシア財務省が発表した24年1〜3月の石油・ガス収入は前年同期比79%増と大幅増だった。米国など西側諸国は金融制裁を強めており、継続できるかどうかは不透明だ。

状況の改善を目指し、プーチン氏は大統領就任を受けて外交攻勢を強めるとみられる。5月には訪中し習近平(シー・ジンピン)国家主席との首脳会談に臨む予定で、5期目の就任後で初の外遊となる見通しだ。同氏は23年10月にも訪中し習氏と会談しエネルギー安全保障などを巡る結束について確認した。

[日経ヴェリタス2024年5月12日号]

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