2024年8月29日,「WebX 2024」2日目に,「日台の天才が語る『今,日本が取り組むべきデジタル戦略』」と題されたトークセッションが開催された。台湾の天才プログラマーにして初のデジタル大臣であるオードリー・タン氏と,日本のAI研究の第一人者である合同会社機械経営代表の安野貴博氏が登壇し,日本のデジタル戦略について議論を交わした。
 
 オードリー・タン氏は,台湾のデジタル変革を牽引する天才プログラマーとして知られる。15歳でシリコンバレーの企業にスカウトされ,その後フリーソフトウェア運動に参加。2016年には35歳で台湾のデジタル担当大臣に就任し,オープンガバメントや市民参加型のデジタル民主主義を推進してきた。
 プログラミングスキルと政策立案能力を兼ね備えた稀有な存在として,世界中から注目を集めている。



AIとの共存:人間の尊厳を高める技術へ


 タン氏は,AIの発展における重要な視点として,「人間の尊厳を高めるAIアシスタント」の必要性を強調した。「AIシステムが常に気遣いを示し,社会側から社会的な修正を受け,その経験から学ぶことが重要です。AIが人間社会から学び,同時に人間もAIとの付き合い方を学んでいく過程が見られてくるでしょう」と述べ,人間とAIの共生の在り方を提示した。

 安野氏が日本人に馴染み深いドラえもんのようなAIエージェントの可能性について尋ねると,タン氏は「ドラえもんのような相互作用をデザインすることは難しくありませんが,重要なのは人々の尊厳を高めるAIアシスタントを作ることです」と応じた。

 安野氏は,日本人が「空気を読む」能力に長けていることを指摘し,これがAI時代において強みになる可能性を示唆した。「日本人はIT技術が高くないかもしれませんが,人間同士のコミュニケーション能力が高い。これがAI時代には大きなチャンスになる可能性があります」と安野氏は語った。


教育改革:デジタルリテラシーからデジタルコンピテンスへ


 両氏は,デジタル時代に適した教育システムの重要性で一致した。「コンピテンスベースの思考は,学生たちをロボットとの記憶力競争から解放し,社会問題の解決や社会的影響力の創出に焦点を当てることを可能にします」とタン氏は説明した。

 一方,安野氏は日本の教育システムの課題として,「日本の教育システムは,問題発見能力やデザイン思考をほとんど無視しています。これらのスキルは,AIの時代には非常に重要になります」と指摘した。

 そこでタン氏が紹介したのが,台湾の教育改革について言及し,2019年に行われたカリキュラムの変更だ。「デジタルリテラシーからデジタルコンピテンスへ,メディアリテラシーからメディアコンピテンスへと変更しました」と説明し,この変更により,学生たちが単に知識を受け取るだけでなく,社会的な問題解決に貢献する能力を育成することを目指していると述べた。


デジタル民主主義の未来


 最後に,タン氏は自身の著書「Plurality」(現在日本語版が制作中)について触れ,ソーシャルメディアの新しい形態を提案していることを明かした。「現在のソーシャルメディアとは異なり,投稿したコンテンツを他のプラットフォームのレコメンデーションエンジンでキュレーションできるような,相互運用可能なシステムを構想しています」とのことだ。

 さらに,Project Libertyとの協業について言及し,「すでに100万以上のアカウントが移行され,現在はTikTokのUS部門をこの種の分散型システムに変換しようとしています」と,具体的なプロジェクトの進捗を紹介した。

 一方,安野氏は日本のデジタル民主主義への貢献を視野に入れており,「政治家との対話を通じて,デジタル技術の重要性が増していることを実感しています。将来的には選挙に出馬するか,政府の内外からアドバイスをする立場になるかもしれません」と今後の展望を語った。

 AIとの共存,教育改革,デジタル民主主義など,多岐にわたるトピックについて両氏の対話は,日本が取り組むべきデジタル戦略の方向性を示唆するとともに,AIと人間社会の調和的な発展への道筋を描き出している。日本のデジタル戦略も参考にできるような,示唆を与えるものになるだろうか。


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