CEDEC 2024で,ポケラボ 結プロダクション エンジニアの高田美里氏と悦田潤哉氏によるセッション「ユーザーの記憶に深く残るソーシャルゲームの終わらせ方 〜ユーザー自身がお墓に入る?!唯一無二のゲーム体験とそれを支える技術のはなし〜」が行われた。


 高田氏と悦田氏が開発していた「SINoALICE」(iOS / Android / PC。シノアリス)は2024年1月15日にサービスを終了したが,その直前にはエンディングとして大規模なイベントが企画されたほか,最終的にはオフライン版アプリ「シノアリスだったナニカ」にアップデートされるなど,さまざまな施策が行われて大きな話題となった。
 その舞台裏が語られたセッションの模様をレポートしよう。



お祭りのようなエンディング


 シノアリスは,アリスや赤ずきん,シンデレラといったキャラクターが,自身の作者を蘇らせるために戦いを繰り広げるというダークファンタジーRPGだ。最大15対15のリアルタイムギルド戦も特徴だった。


 シノアリスでは,当初からエンディングをしっかりと作る構想があったとのことで,「ただでは終わらない」「最後までお祭り感覚で楽しみたい」という思いから,「シノアリスフィナーレ計画」と題したさまざまな施策が展開された。

 そのクライマックスは,シノアリスのアプリがプレイヤーのお墓である「シノアリスだったナニカ」に変わるところなのだが,そこに名前を刻むためには,ギルドメンバーとのレイドバトルを経て,ゲームのエンディングを見る必要がある。


 ただし,そこに至るまでの道のりはなかなか大変だ。プレイヤーは2023年12月20日に配信された「ヨクボウ篇」の1〜6章をクリアしたうえで,12月26日に配信された真の最終章である7章で,ギルドメンバーと共にバトルへ挑む必要がある。サービス終了は2024年1月15日なので,7章実装からは約2週間しかない。

 しかも,ラストバトルにはギルドメンバー全員が同じ時間に揃ってバトルに挑む必要があった。また,ヨクボウ篇をプレイするには,それまでに配信されたストーリーもクリアしていなければならない。想定プレイ時間は16時間なので,復帰プレイヤーにはなかなか厳しい条件だ。


 そこで高田氏たちは救済策を考えた。戦力が低くてもクリアしやすくなるバトルサポート機能の実装は決まっていたが,それに加えて,ヨクボウ篇からゲームを開始できるスキップ機能を用意することにした。

 これはプランナーが「バズりも期待できるような裏技みたいなものが欲しい」と話したことがきっかけだったという。

 それを聞いたエンジニアから「端末シェイクを使えば短期間で実装できる」というアイデアが出て,「ホーム画面で端末を100回シェイクすると,ヨクボウ篇が開始できる場所まで飛ぶ」という機能として実現した。


 あくまで裏技なので,実装当初は運営側から告知はせず,プレイヤーに気付いてもらうことを待ったという。高田氏らは毎日ハラハラしながら見守っていたそうだが,徐々に気付いたプレイヤーが出てきたことから,満を持して1月1日に公式から暗号ツイートという形で情報を流した。この暗号はマーケティング担当者が作成したという。


 また,サウンド担当からは「シェイクするごとに音が出て,ガチャで流れる曲を奏でる」というアイデアが出て,それも採用されたとのこと。

 裏技が認知されてからは狙い通りにエンディングに到達するプレイヤーも増え,高田氏は「いい施策だった」と振り返った。


エンディングを支えた技術


 ここで悦田氏が登壇し,エンディングのイベントを滞りなく進行させるために行った作業を説明した。

 大きな課題としては,「ギルドレイドの同期」と「ログイン制限」があったという。

 まずはギルドレイドの同期について。前述のように,エンディングのギルドレイドバトルは,メンバーが全員揃った状態でバトルに挑む必要があった。また,バトル前後に流れるシナリオについても,同時に進行させてほしいというオーダーがあったとのこと。


 これを実現させるために「どのように同期を開始するか」「アプリ落ちがあった場合,どう復帰させるか」が問題になった。

 そこで悦田氏は,バトルの前に「メンバー待機所」を新たに設置。さらに,「シノアリスだったナニカ」に至るまでの道のりを「バトル前シナリオ」「バトル」「バトル後シナリオ」といったフェーズに分けて,プレイヤーがどこにいるのかの情報を持たせるようにした。もし脱落した際は,この情報を判断材料として復帰ポイントを決めるようにしたという。


 もう1つの「ログイン制限」が必要になった理由としては,エンディングのイベントでDAU(Daily active users)の増加を狙っていたことがある。あまり前例のない企画だけに,どれだけプレイヤーが増加するかが予測しづらく,負荷が上がった場合に対応できるか,対応したところでコスト的な問題は発生しないか……という懸念があったという。


 そこで,プレイヤーが想定以上になった場合は,リクエストレート制限という手法でログイン制限をかけることになったが,前述の通り,ギルドレイドバトルはメンバー全員で挑む必要があるため,細かい条件を設定した。

 具体的には「プレイ中に制限がかかって進行を止めることを防ぐため,制限をかけるのはアプリ起動時に使用されるログインAPIのみ」「ギルドメンバーの誰かがプレイ中であれば,同じギルドのプレイヤーはログインAPIを突破できる」といったものだ。


 悦田氏は,ログイン制限が予想のつかないアクセス増加への対策として大きな意義があるとして,自身のパートをまとめた。


人がいなくなる中でのタスクマネジメント


 ここで再び高田氏が登壇し,エンディングの開発におけるタスクマネジメントを振り返った。

 エンディングの開発は,通常の季節/周年イベントなどの作業と並行して進める必要があったとのこと。
 エンディングの仕様は,関係者から伝え聞くような形で断片的に降りてきており,あるエンジニアは「タスク量はあるみたいだけど,今の人数ならいけそう」と話していたものの,いざ正式に仕様が決まって開発がスタートしてみると,そううまくは進まなかった。

 大きな要因の1つは,人の異動が発生したことだった。プロジェクトの終了が近づけば,別の場所に移る人も出てくるうえ,人員の補充もされなくなる。こなすべきタスクに対してエンジニアの人数が足りないというピンチに陥ってしまった。


 ここで高田氏は大規模開発のタスク管理経験が少なかったこともあり,「タスクマネジメントの基本に忠実に従おう」と決めた。
 具体的には,大きなタスクは小さく切りわけて工数を把握し,実装が間に合うかを確認。対応順に優先度を付けて,工数が逼迫する仕様は圧縮を検討するといった具合に,とにかく「見える化」を図った。

 人員不足はプランナーでも起こっていたため,エンジニアから「FIXした仕様がないので,工数が出せません」という“開発現場あるある”がさらに高い頻度で起きていたという。


 これに対しても高田氏は,地道な確認で仕様を確定させていく。その際には「この仕様でいっていいですか?」といったように,エンジニア側から仕様を提案したそうだ。

 努力の甲斐あって,エンディングは遅延することなく実装できたのだが,高田氏は一番の理由として「マイルストーンの設定」を挙げた。
 2週間ごとに区切りを付けて「この部分はここまでに実機で確認できるようにする」と決め,実際にプレイ会を行ったという。


 もちろん,すべてが予定通りには進まなかったが,プレイ会があったおかげで「この部分は遅れます」といった報告があり,フォローもしやすくなったとのこと。高田氏はこうしたコミュニケーションを「健康診断を行っているような」と表現した。

 プレイ会には別のメリットもあった。厳しいスケジュールで開発を進めるスタッフには,「本当にリリースできるのか?」「面白いものが作れているのか?」といった不安のようなものが生まれていたが,作ったものが実機で動く様子を見ることで,それを一掃できたという。


 高田氏は最後に,「シノアリスならではの,『サービス終了を全力で楽しむ』ということを,エンジニアもプランナーもマーケティングも前面に押し出していけたのが本当に良かった」と振り返り,セッションをまとめた。

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。