【ヒューストン=花房良祐】米バイデン政権は17日、液化天然ガス(LNG)開発に関する報告書を公表し、輸出増加につながる新規事業の許認可に慎重な姿勢を示した。温暖化ガスの排出増加や米国内の天然ガス価格上昇につながるリスクがあるという。米国産LNGに頼る日本など輸入国にとって受け入れがたい内容で、反発が広がりそうだ。
エネルギー省のグランホルム長官は17日、「(LNG開発を)通常通り進めることは持続性がなく、推奨されない」との声明を公表した。
環境重視の民主党の見方が色濃く反映された報告書となった。米紙ニューヨーク・タイムズは、環境団体がLNG事業を阻止するために訴訟する際に報告書が引用される可能性が高いと報じた。
ロシアのウクライナ侵略後、西側諸国は米国産LNGの調達を増やしたが、報告書は欧州や日韓の需要は頭打ちだと主張。今後の需要をけん引するのは中国だとした。
米国のLNG輸出が増えなくても同盟国への影響は軽微だとの主張をにじませた。ただ、米国からの供給量が減少すれば世界的に需給が引き締まり、価格上昇や契約条件の悪化につながる。
報告書ではこれまで政府が輸出許可を与えたプロジェクトだけで需要は満たせると主張した。米国がLNGを追加輸出すれば国外で再生可能エネルギーの減少につながるとの見方を示し、温暖化ガス排出を削減するためにも米国産LNGはこれ以上必要ないとの立場をにじませた。
輸出・開発業者に恩恵を与える一方、米国内のガス価格が30%超上昇する可能性があるとして「公共の利益」に反するとした。LNG向けにガスを出荷すれば米国内の需給が逼迫して家計や産業の負担増につながるという。プラントやパイプラインから有害物質や温室効果のあるメタンガスが漏れ、環境にも有害だと指摘した。
業界団体や野党・共和党は反発している。下院エネルギー・商業委員会のキャシー・ロジャーズ委員長(共和党)は「政治的な動機に基づいた報告書で、バイデン政権は過激な環境団体を懐柔している。共和党は米国の天然ガスを解き放つ」との声明を出した。
日米などの企業が加盟するアジア天然ガス・エネルギー協会は日本経済新聞に「米国産LNGのおかげでアジアは石炭消費を減らしており、エネルギー安全保障と排出削減に不可欠だ。米国の追加供給がなければLNG価格が上昇してアジアで石炭依存が続く」とコメントした。
バイデン政権は24年1月、新規LNG許認可の審査を凍結。大統領選に向けて環境派の票を取り込むためとされている。政府は経済・環境への影響を評価し、17日に報告書として公表した。
トランプ次期政権はLNGの輸出促進を掲げ、審査凍結を解除する方針。報告書が新政権の政策に与える影響は不透明だ。
ただ、将来再び民主党が政権を奪還することになれば、エネルギー政策の揺り戻しが発生する。LNG輸出を巡る党派色が強まれば、政権交代のたびに日本のLNG産業も揺れそうだ。
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