【ヒューストン=花房良祐】米航空宇宙局(NASA)は5日、1972年以降で初めて宇宙飛行士を月面に降り立たせることを目指す有人月面探査「アルテミス計画」を1年延期し、月面着陸が2027年半ばになると発表した。宇宙船の開発が遅れているためと説明した。計画を巡っては中国をライバルとしており、同国よりは先行すると強調した。
NASAのビル・ネルソン長官が5日に記者会見を開き、計画の変更について説明した。ネルソン氏は「(計画変更後も)中国が目標とする30年よりは前だ」と強調し、月面開発で米国が先行しているとの考えを示した。
従来は26年9月を目指していたが、27年半ばにずれ込む。月面着陸に先立ち実施する月を周回する有人ミッションは従来25年9月だった予定を26年4月に延期した。米国は中国をライバル視し、ネルソン氏は先行して月に到達する必要があると改めて指摘した。
有人宇宙船「オリオン」の耐熱シールドの性能が主な原因だ。22年の初の無人の打ち上げで月を周回して地球に帰還したが、想定以上に船体が損傷した。このため、地球帰還の際の大気圏への突入軌道を変更するとしている
NASAはトランプ次期政権と計画変更について協議していないという。NASA次期長官には起業家ジャレッド・アイザックマン氏の指名が内定している。同氏はスペースXを率いる起業家イーロン・マスク氏に近い。
アルテミス計画を巡っては1期目のトランプ政権が19年に、24年に有人の月面着陸を実施すると発表したが、その後、たびたび遅れが生じている。
コストも膨張して「税金の無駄遣い」との批判の声も上がり始めていた。有人月面開発に投じられた資金は12〜25年に累計930億ドル(約14兆円)に達すると推計されている。
アルテミス計画はNASAが主導する国際計画で日本や欧州も参加。日米は日本人2人が月面に着陸することでも合意している。
大型ロケット「SLS」はボーイング、宇宙船「オリオン」はロッキード・マーチン、月面着陸機はスペースX、月面探査車はトヨタ自動車といった多くの民間企業も開発に関わっている。
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